研究課題/領域番号 |
19H04399
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
山崎 裕一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 統合型材料開発・情報基盤部門, 主幹研究員 (70571610)
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研究分担者 |
横山 優一 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 分光・イメージング推進室, 博士研究員 (20824163)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 共鳴X線散乱 |
研究実績の概要 |
磁気励起によって生じる準粒子であるマグノンの流れを可視化することを目的に、共鳴軟X線散乱によるnmスケール、ピコ秒オーダーの時空間分解能を有する顕微計測手法を開発している。本年度は、マイクロ波励起による強磁性共鳴の時分割計測手法に重点を置いて研究を進めた。放射光施設の電子バンチ構造を決定するマスターオシレーター信号を参照波とし、マイクロ波位相遅延回路や逓倍波回路、増幅器などの回路を通じて強磁性共鳴が起きる周波数の電磁場を生成し、コプラナーウェーブガイドを通じて試料に印加する計測システムを構築した。マスターオシレーター信号は500MHzであるが、本回路を通じて5GHzのマイクロ波に変換した。試料はパーマロイ合金を用い面内に静磁場を印加し、面直に印加されるマイクロ波の磁場によって励起される強磁性共鳴の観測を目指した。ベクトルネットワークアナライザーでマイクロ波の吸収スペクトルを観測しながら、強磁性共鳴が起きる磁場に設定した。試料にはFeの吸収端に対応する705eVの左右円偏光軟X線を用いた。その結果、位相遅延回路により試料に印加されるマイクロ磁場を走査すると、磁気共鳴に対応した周期的なX線吸収度の変化を観測することに成功した。左右円偏光のヘリシティを反転すると強度変調の時間変化も反転することから、マイクロ波励起による磁気共鳴が観測できたことを確認した。位相遅延回路の位相制御に振動信号を入力し、X線吸収度をロックイン検出することにも成功し、X線のスペクトルからFeの吸収であることも確認できた。本研究によって、強磁性共鳴の時間変化を放射光X線パルス幅である50ps程度の時間分解能で観測できたことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、軟X線顕微鏡により高時空間分解能でマグノン伝搬を観測することを目的としている。初年では軟X線顕微鏡の開発を進め磁気構造を数十nmの空間分解能で観測することに成功した。本年度は、時間分解計測を行うためにマイクロ波の導入システムの開発などを進めてきたが、予定通り強磁性共鳴におけるスピン歳差運動の時間変化を観測することができた。これらによって、当初予定した顕微計測とマイクロ波照射時分割計測システムを構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を遂行する上で最も重要である時間と空間の高空間分解能で計測するシステムを構築できたので、今後はこれらの計測手法を統合して空間と時間の2+1次元の分解能を有する顕微計測システムを構築する。本測定システムを用いて、磁性多層膜やイットリウム鉄ガーネットのような実試料に対して、マグノンが空間伝搬していく様子の観測を目指す。本測定手法の元素選択性や偏光特性、多極子検出などの特性を活かし、先端的な物性研究への展開も目指して行く。
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