本研究では放射光から発生する高輝度な軟X線を用いた顕微鏡によって、磁性体にマイクロ波を照射して励起される磁気共鳴の準粒子励起マグノンの伝搬を観測することを目的とした。最終年度では、マイクロ波励起による強磁性共鳴の時分割計測とフレネルゾーンプレートと呼ばれる軟X線集光素子による集光走査型顕微鏡を組み合わせた計測手法の開発に重点を置いて研究を進めた。時分割計測は、放射光リング内の電子バンチ間隔を制御するマスターオシレーター信号を参照波とし、マイクロ波位相遅延回路や逓倍波回路、増幅器などの回路を通じて強磁性共鳴が起きる周波数の電磁場を生成し、コプラナーウェーブガイドを通じて試料に印加する計測システムを構築した。テスト試料には強磁性体のパーマロイ合金(Fe-Ni合金)を用い、FeとNiのL殻吸収端に波長を合わせた左右円偏光軟X線を用いた。位相遅延回路により試料に印加されるマイクロ波磁場の位相を走査すると、磁気共鳴に対応した周期的なX線吸収度の変化を観測することに成功し、印加する磁場に応じて振幅磁場と位相遅延が変化することを確認した。また、軟X線をフレネルゾーンプレートによって数百ナノメートルまで集光し、マイクロ波を照射した状態で試料を走査することで、磁気共鳴の時間変化を位置分解して観測することにも成功した。試料内部で磁気共鳴の強度や位相、高調波成分が変化していることが観測され、コプラナーウェーブによって印加されるマイクロ波磁場に空間分布があることに由来していると考えられる。以上の結果により、当初の目的であった50ピコ秒の時間分解能を有する軟X線顕微鏡を実証することができた。
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