研究課題/領域番号 |
19H04402
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
梅森 健成 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 准教授 (60353364)
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研究分担者 |
有沢 俊一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, グループリーダー (00354340)
許斐 太郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (20634158)
阪井 寛志 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 准教授 (50345229)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超伝導加速空洞 / ニオブ / 磁束 / 表面抵抗 / 表面分析 |
研究実績の概要 |
本研究は超伝導空洞の高性能化、つまりは高加速勾配化・高Q値化(低損失化)を目標とするものである。ニオブの表面抵抗は、温度とともに指数関数的に小さくなるBCS抵抗と、ほとんど温度に依存しない残留抵抗からなる。本研究では①冷却時に超伝導に転移する際の磁束捕捉を制御し残留抵抗を軽減すること、②高加速勾配、低損失を実現する表面処理方法を開発することを目的としている。 まず①の磁束捕捉の研究については、NIMS(物質材料研究機構)にてMO(磁気光学)膜を用いた磁束(magnetic flux)の観測装置の整備を進めた。新たなMO膜の購入、磁束観測の精度を向上させるための光学顕微鏡の改良、サンプルホルダーの製作などを行い、冷却時の磁束の動きをリアルタイムで観測した。様々な処理方法を施したニオブサンプルを用意し、それぞれ磁束捕捉の様子を観察した。新たな知見として、磁束(flux)が束(bundle)となって動く様子が観察された。 また低温での空洞周囲の磁場観測用に、AMRセンサーの試験、空洞用マッピング装置の開発を行っている。 次に②の表面処理方法については、KEK(高エネルギー加速器研究機構)にて空洞およびニオブサンプルに処理を施すことで研究を進めた。窒素インフュージョン、窒素ドープと呼ばれる高温熱処理時に微量の窒素を添加する処理方法、最終電解研磨後のベーキング温度を変える処理方法などの様々な処理方法を施し、空洞の性能評価を行った。これまでのところ、標準的な処理方法と比較して高Q値の実験結果は確認できているが、高加速勾配はまだ実現できていない。新たな発見としては、真空炉にて400度程度の熱処理を施すと、窒素を用いずとも高Q値が得られることがわかった。ニオブサンプルに対してもSIMS、EBSD、XRRなどの表面分析を行い、空洞性能と表面状態との関係を探っているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究は非常に順調に展開されている。概要で述べたように、研究の目的は①磁束の制御による表面抵抗値の低減、②高性能を実現する表面処理方法の開発である。 磁束の観測においては、これまで走査型SQUIDを用いた観測とMO膜を用いた観測を進めてきた。SQUIDは非常に分解能が高く磁束の1本1本を観測することができたが、一方で全体的な分布を把握することが難しく、冷却時の捕捉の状況(サンプル上での濃淡)を理解することが難しかった。そこで、MO膜を用いての観測も進めることとした。光学顕微鏡の改良、サンプルホルダーの製作などを行い高精度で観測できるよう工夫を行い、その結果、非常にクリアに磁束の動きが観測されるようになった。熱処理の温度により磁束捕捉の状況が異なる様子が観測されただけでなく、サンプル上に磁束の動きをせき止めるような場所があることも見て取れた。また、磁束は1本1本独立して動くと想像していたが、実際はbundle(磁束の束)として動くことが確認された。これは、磁束捕捉のメカニズムの理解、また捕捉磁束が高周波磁場の元で抵抗をもたらす起源を理解するうえで非常に重要な結果である。 表面処理方法に関しては、窒素インフュージョンや窒素ドープなど、高温熱処理時に微量の窒素を導入することで高Q値(低損失)の表面状態が得られることが知られていた。KEKで行った実験において、真空炉で400度程度の熱処理を行うことで窒素ドープに匹敵する高Q値が得られることが発見された。これは窒素を用いなくても高Q値が得られることを示していて、今後の高性能化に繋がっていく研究成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の磁束測定は以下のように進めていく予定である。①異なる表面処理を施したニオブサンプルに対し、MO膜による磁束バンドルのリアルタイム観測を引き続き進める。磁束観測と表面分析の両面から研究を進め、磁束を捕捉しやすい表面状態を明らかにするとともに、効果的な磁束排除を実現する条件を探る。②現在は手動操作にてMO膜の測定を行っている。系統的なデータ取得・解析を実現するために、画像処理機能を備えた制御ソフトを準備して、磁場温度制御・画像撮影をできる限り自動化する。また、撮影計測用のカメラのグレードアップを図り測定の高度化を目指す。③MO測定の補完的な測定として、ホール素子などの走査型顕微鏡開発を継続する。より高い分解能での測定が可能になり、磁束捕捉となり得る欠陥構造の同定が期待される。また、磁束バンドルの詳細な構造の観察も行う。EBSDの精密測定結果などと照らし合わせる事で、磁束捕捉の原因となる欠陥構造に関しての理解に繋げる。さらには④空洞用磁場マッピング装置を用いて実験を行い、空洞で起こる現象の理解に努める。以上の磁束観測結果より、⑤磁束捕捉のダイナミクスについての理論的考察を行う。 表面処理方法については、さらに温度条件を変えるなどして更なる高性能化を実現できる表面処理方法を探っていく。400度熱処理で高Q値が得られるのは、ニオブの酸化層の影響ではないかと考えられる。熱処理温度を変えることで表面状態を変え、さらに窒素ドープ・窒素インフュージョン等の処理方法と組み合わせることで、新たな知見が得られることも期待される。高加速勾配が得られる処理方法を探る事が、最大の課題である。空洞でのRF測定には、時間がかかるため、ニオブサンプルでの評価も進めていく。ニオブサンプルに対し、超伝導空洞を模擬した表面処理を行い、表面分析を行うことで、空洞の高性能化への理解を深めていく。
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