強磁性体の内部の磁区分布や、その磁場に対する応答は、電磁鋼板の低鉄損化など応用研究に深く関わっているにも関わらず、適切な測定手法が無いため充分知られていない分野である。この問題に対し、研究代表者はX線の新しい磁気光学効果「X線磁気円偏光発光」を2017年に発見した。物質透過能に優れ、磁性に感度が高いという特長があり、そこで本研究では、当該原理を利用した磁性体内部の磁区観察が可能な磁気顕微鏡を構築する。 まず、本研究で構築する磁気顕微鏡の概要を述べる。励起光源は放射光X線を用いる。主要構成要素は、 集光光学素子、平行化光学素子、円偏光解析装置である。集光光学素子は屈折レンズを用い、入射X線を10μm程度に試料上に集光する。平行化光学素子は、試料が発する特性X線を大きな立体角で集めると同時に平行光に変換し、下流の偏光解析装置に供給するもので、Montel型の多層膜ミラーを用いる。円偏光解析装置は特性X線の円偏光度を評価するもので、ダイヤモンド移相子、およびゲルマニウム単結晶からなる直線偏光解析装置で構成される。 2019年度は、各光学素子の組み上げや多層膜ミラーの性能評価等を行った。結果、入射X線エネルギー17.3keV および26keVで、電磁鋼板を試料とし、ストライプ状の主磁区等を10μmの空間分解能で観察することに成功し、深さ積分型の内部観察可能な磁気顕微鏡の構築を達成した。2020年度は光学素子の性能評価を継続するとともに、重要課題である深さ分解測定についてテスト実験を行った。また、磁場印加実験を実施し、電磁鋼板の磁化反転過程における磁区発展の観察にも成功した。2021年度は、光学素子評価の結果等をまとめ、磁気顕微鏡の装置論文としてJ. Appl. Phys. 誌に掲載した。また、光学素子評価、深さ分解測定、磁場印加実験を継続し、成果発表につながる結果を得た。
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