研究課題
平面波コヒーレントチェレンコフ放射発生位置にアルミ蒸着Si薄膜を挿入して可視域の遷移放射を発生し、この位置における電子ビームプロファイルを観測した。上流にある四重極電磁石の磁場を調整して電子ビームサイズを変化させ、テラヘルツ帯のコヒーレント遷移放射強度が充分に高い状態で、ビーム直径を2mm以下にできることを確認した。2THz以下の周波数帯にて吸収係数が極めて小さい高抵抗Si(20kΩcm以上)を用いた中空円錐管を設計した。下流真空容器の形状を考慮して底面の直径を42mmとし、輸送による回折損失を抑制するために底面を曲率半径1.58mの球面とした。電子ビームプロファイル測定の結果を受けて、中空円錐管の中空内径は電子ビーム直径の5倍以上となる10mmに設定した。これにより、中空円錐管を通過することで生じる電子ビーム損失はほぼ無視することができ、電子ビーム損失による発熱の問題も回避できる。中空円錐管の製作は2年度目の予定であったが、計画を前倒しして作製した。次年度に計画している平面波コヒーレントチェレンコフ放射のプロファイル測定のために高画素テラヘルツカメラを購入し、コヒーレントエッジ放射を利用して動作確認を行った。平面波コヒーレントチェレンコフ放射と比較してコヒーレントエッジ放射の放射強度は1/10以下であるが、集光することで観測可能であった。ワイヤーグリッドを利用した平面波コヒーレントチェレンコフ放射の偏光特性解明が可能であることが確かめられた。これらの研究成果やコヒーレント光源の利用に関した実験報告を積極的に公開した。査読付き国際誌に2報、学会誌に1報発表したほか、研究分担者らとともに内外の研究会にて多数の発表を行い成果の普及に努めた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の当該年度における最も重要な課題は、日本大学電子線利用研究施設の電子ビームを考慮して、平面波コヒーレントチェレンコフ放射発生源である中空円錐管の設計を実施することであった。可視域の遷移放射プロファイル観測とテラヘルツ域のコヒーレント遷移放射強度観測によって、高抵抗Si製の中空円錐管の中空内径を10mmに設定することができた。また、研究計画を前倒しして、底面に集光特性を持たせた高抵抗Si製中空円錐管を作製した。2020年2月より影響を受けた新型コロナ堝のため、高画素テラヘルツカメラを使用した偏光特性を測定可能な2次元強度分布測定システムの実証実験は延期された。しかし、平面波コヒーレントチェレンコフ放射よりも強度が一桁以上低いコヒーレントエッジ放射を集光してその2次元強度分布を測定できることは確認した。研究成果の公開においては、平面波コヒーレントチェレンコフ放射の開発状況についてIPACや加速器学会など国内外の研究集会にて発表を行うとともに、相対論的電子ビームを用いたコヒーレント光源に関する論文を査読付きの国際誌に投稿して掲載された。また、テラヘルツ光のプロファイル測定試験に利用したコヒーレントエッジ放射については、未知の現象が発現していることが観測されており、公表に向けて実験データを精査している。準単色テラヘルツ光が得られる新規のコヒーレント放射源についても研究をまとめて学会誌に投稿・掲載された。以上の経過から、概ね順調に本研究課題を遂行していると判断した。
初年度に設計・製作した中空円錐管を電子ビーム軌道に配置する円錐管保持装置を作製し、パラメトリックX線直線部に設置する。平面波コヒーレントチェレンコフ放射では、放射強度を極大にするために電子ビーム軌道軸と中空円錐管の中心軸を一致させることが重要である。従って、本装置は2回転を0.1mrad以下の精度で遠隔制御できる仕様にしている。円錐管保持装置の設置後、平面波コヒーレントチェレンコフ放射発生実験を実施し、その2次元強度分布を明らかにする。ワイヤーグリッドを利用することで平面波コヒーレントチェレンコフ放射がラジアル偏光であること示し、集光することで発現が期待される空間的な周期構造の観測を行う。パラメトリックX線のビームラインを利用して平面波コヒーレントチェレンコフ放射を放射線の影響を受けない実験室へ輸送する。輸送後のスペクトルを測定し、光源に近い加速器室で取得した平面波コヒーレントチェレンコフ放射のスペクトルと比較することで、ビームラインの輸送効率を評価する。輸送した高強度テラヘルツ光は電子バンチ形状測定やテラヘルツ応用研究などに利用する。本研究課題を推進することで得られた研究成果を国内外の研究会や国際誌において積極的に発表する。特に、誰でも読むことが可能なオープンアクセスの論文誌への掲載に注力する。相対論的電子ビームを用いたコヒーレント放射に関する様々な現象について考察を深め、高強度テラヘルツ光応用の開拓に貢献する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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