研究課題/領域番号 |
19H04411
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
寺内 文雄 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (30261887)
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研究分担者 |
佐藤 浩一郎 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (40598330)
須田 高史 群馬県立産業技術センター, その他部局等, 係長 (50522372)
久保 光徳 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (60214996)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | プラスチック / 機能傾斜材料 / 質感 / 熱可塑性樹脂 / 熱硬化性樹脂 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂を用いた傾斜機能プラスチックの成形方法を構築することにある.まず熱硬化性樹脂を対象とした検討では,二軸押出機を用いて,硬さや質感が徐々に変化する熱可塑性樹脂の3Dプリンタ用フィラメントの作製を行った.樹脂にはポリプロピレンとオレフィン系熱可塑性エラストマ(以下エラストマ)を用い,これらの配合割合を変化させて複数種類フィラメントを作製した.ついで作製したフィラメントが3Dプリンタによって出力可能かを試すことで造形可能な配合割合が明らかにした.そこで,ポリプロピレンとエラストマの配合割合が徐々に変化するフィラメントを作製し,これを用いて3Dプリンタで中空の角柱および円柱を造形した.ついで,造形したサンプルを片持ち梁に見立てた曲げ試験によって,造形物の硬さが徐々に変化していることを確認した. これに対して,熱硬化性樹脂を対象とした検討では,常温硬化性のシリコーンゴムを用いて,傾斜機能を有する立体の作製を試みた.シリコーンゴムの硬さを専用シンナーを用いて変化させる方法により,シリコーンゴムが完全に硬化する前に次の層を重ねていくことで硬さが徐々に変化しながら一体化した立体物を作製した.ついで段階的に硬さが変化した立体物の印象を明らかにするために,徐々に軟らかくなるサンプル,徐々に硬くなるサンプル,硬軟の異なる層を交互に積層したサンプルを作製し,それらを対象とした被験者実験を実施した.これにより,段階的に硬さが変化する立体物では,従来のような均一な立体物とは大きく異なる印象となることを確認した.同時に作成した立体物の力学特性を圧縮試験によって検討した.その結果,段階的に硬さを変化させた場合の方が硬軟の異なる層を交互に積層した場合よりも,同じ荷重をかけた際の変位が大きくなる傾向にあることが確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
熱可塑性樹脂を対象とした場合の本年度の目標の1つは,ポリプロピレンとオレフィン系の熱可塑性エラストマを異なる割合で配合して直径1.75mmの3Dプリンタ用フィラメントを作製することにある.当初は,一定の直径とすることができなかったものの,二軸押出機の温度や回転数の設定と冷却方法の検討によって,ポロプロピレンとエラストマを配合した場合でも均一な直径のフィラメントを作製するためのノウハウを得ることができた.もう1つの目標は作製したフィラメントを用いて3Dプリンタで立体を造形することである.ポリプロピレンをフィラメントとした3Dプリンタによる造形は,ABS樹脂やPLAといった一般的なフィラメントよりも難易度が高いことが知られている.そのため購入した3Dプリンタでは,作成したフィラメントがノズルに詰まる,フィラメントが押し出されないなどの複数の問題が発生した.そこで,ノズルの改良とフィラメントを挿入するためのジグの制作を行い,3Dプリンタによる造形を可能とすることができた. 一方の熱硬化性樹脂を対象とした場合の目標は,積層するのではなく傾斜的に硬さが変化する一体化した立体物を作製することにある.これはシリコーンゴムが,一度硬化すると接着が極めて困難という特性を有しているためである.そこで完全に硬化してしまう前に,次の樹脂を流し込んでいくことで一体化した段階的に硬さが変化する立体物を作製することができた.一方で,専用シンナーで柔らかさを増したシリコーンゴムは,経時変化に伴って体積が減少してしまうことが判明した.この点を解決することが次年度の課題となる.それでも当初計画していたように,硬さを連続的に変化させることができ,また段階的に硬さを変化させたサンプルの印象が同じ硬さのシリコーンゴムとは大きく異なることが確認できていることから,概ね順調に進展しているものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行った検討により,熱可塑性樹脂を用いた場合と熱硬化性樹脂を用いた場合のいずれにおいても,母材となる樹脂の調整によって ,硬さを傾斜的/段階的に変化させられることが確認できた.熱可塑性樹脂を用いた場合は,硬さが徐々に変化する3Dプリンタ用フィラメントを作製することと,作製したフィラメントを用いて立体物を造形できることが確認できた.一方,熱硬化性樹脂を用いた場合は,硬さの傾斜のさせ方を変えることで,押しつぶした際の印象が大きく異なることを明らかにした. そこで,本年度は母材となる樹脂に加えて,樹脂に混錬するフィラーに着目した検討を実施する.熱可塑性樹脂を対象とした場合は,まず3Dプリンタ用フィラメントを作製する際にフィラーを混錬し,3Dプリンタによって造形物を造形することを試みる.この際,着色用ペレットを用いることで,色相を徐々に変化させることについて検討する.これにより硬軟だけでなく,色相やテクスチャが徐々に変化する立体物を造形するための具体的な方法を明らかにする.一方,熱硬化性樹脂を対象とした場合は,継時変化に伴う樹脂の収縮をフィラーによって抑えることが最優先課題である.加えて色相やテクスチャを段階的ではなく,傾斜的に変化させることを目的とした検討を行う.ついで作製したサンプルに対する印象評価実験と力学特性の検証実験を行い,その活用可能性を明らかにする.最終的には,質感や機能が連続的に変化する傾斜機能材料の成形方法を確立するとともに,提案した傾斜機能材料を用いた応用例を示すことによって,提案する材料の有効性の検証を行う.
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