研究課題/領域番号 |
19H04415
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研究機関 | 神戸芸術工科大学 |
研究代表者 |
黄 國賓 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 教授 (50441382)
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研究分担者 |
杉浦 康平 神戸芸術工科大学, 附置研究所, 名誉教授 (00226432)
さくま はな 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 准教授 (00589202)
曽和 英子 神戸芸術工科大学, 附置研究所, 研究員 (80537134)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 花笠 / 笠鉾 / シャーマン冠 / シャナ冠 / 須弥山 |
研究実績の概要 |
R2、R3年度の研究調査は主に国内外の文献調査、国内の博物館や資料館、伝承館における「頭上祭礼装置」の実物測定を行い、また、海外研究協力者のオンライン研究交流、情報交換などを進めた。国内の調査では、主に青森県、島根県の隠岐神楽、熊本県八代市稚児の天冠、山形県鳥海山大物忌神社吹浦口の宮例大祭用花笠、京都府、長崎県、鹿児島県の祭礼用の花笠、須弥山の造形と思われるタイ、インドネシア芝居用の冠とブータン宗教儀礼用のシャナ冠の実物を実測した。また、北広島町の民俗文化に伝承されている花田植の牛の飾り(牛の背中に立てられている花笠)、本地の花笠踊りに関連造形、およびその歴史的形成要因、博多松囃子にみかけられた傘鉾、博多祇園山笠巡行図屏風における山笠、八代神社の祭礼に行われる八代妙見祭の神幸行事における笠鉾、秩父夜祭の笠鉾の構造の形態と特徴を写真により記録、把握した。さらに、吉林大学考古学院の胡衛軍氏との研究交流により、中国東北地区に散見する各族のシャーマン冠の装飾意味およびその服飾の特色や意味などを明らかにした。
R4年度はカンボジアとブータンの祭礼における「頭上祭礼装置」の現地調査を実施した。カンボジアの調査では主にアンコールワット・アンコールトム、バンテアイスレイ、ベンメリアなどの遺跡の石彫刻に現している女官、踊り子、蛇神ナーガや鳥神ガルーダの冠の意匠とヒンドゥ教の宇宙観との関係を把握した。一方、ブータンの調査では主にプナカ・ツェチュ祭りにおけるチャムの内容、儀式、シャナ・チャムの衣装、シャナ冠などを確認、記録した。とりわけ、シャナ冠の造形原理について僧侶ツェチュ氏にインタビュー、意見交換を行い、論文の仮説を確認した。以上の調査資料整理、清書図面をひととおりとり終え、日本の花笠、笠鉾の造形とヒンドゥ教、仏教の宇宙観やアジア冠との関わりを論文、報告書のまとめを進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は国際連携調査により、日本各地の祭礼に現しているかぶる笠(花笠)、山笠、笠鉾など神迎えの象徴的な祭礼装置として頭上に冠る、頭上に担ぐ「頭上祭礼装置」を主軸に、ユーラシア大陸の北東部、中央部、東アジア、東南アジア、南アジア各地の「頭上祭礼装置」を取り巻く構造原理を解明するための基盤研究を確立する。該年度の研究計画は以下4点である。 A)「日本の祭りや芸能に見られる「頭上祭礼装置」の造形原理とその役割を明確化する」。B)「中国東北地区に散見する各族のシャーマン冠」の装飾性とその服飾意味を明らかにする。C)「ブータンにおけるシャナ冠の造形原理」と須弥山との関わりを明らかにする。D)「タイの王冠、カンボジア遺跡の冠、ブータンのシャナ冠の構造原理」と須弥山やマンダラ宇宙観との関わりを比較する。A)は、すでに神話伝承や芸能、 自然崇拝の推移に従った青森県、山形県、埼玉県、京都府、島根県、北広島、福岡県、長崎県、熊本県、鹿児島県などにおける「念仏踊り(かぶる笠)」「花笠」「笠鉾」の構成原理を明らかにした。一方、日本における冠物は1.雨ごい(豊作を願う)。2.悪魔祓い。3.鎮魂供養。3点の役割を導き出した。B)は、吉林大学考古学院の胡衛軍氏との連携により、中国東北のシャーマン冠と関わり服飾の象徴性が解明された。C)は、神戸芸術工科大学紀要『芸術工学2021』によって明らかにし、その研究成果が公開されている。D)は、研究協力を予定していたタイ王冠の研究者が一身都合の関係で、実現できなかったが、カンボジアとブータンの現地取材や図像分析の比較することにより、両地域の冠とヒンドゥ教、仏教の宇宙観との関連を明らかにした。
以上4点の研究成果は「宇宙を冠る」報告書に載せる予定であり、研究達成度はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、アジアの「頭上祭礼装置」のデザイン実態把握と国際連携調査を通して、アジアの宇宙観(聖山)、霊獣、生命樹などの信仰を概念とするアジアの「頭上祭礼装置」の体系を解読してゆき、アジアの「頭上祭礼装置」の造形デザインの中に、日本の「頭上祭礼装置」の位置づけを明らかにする。今後の研究の推進方策は、これまで研究対象としてきた日本と東南アジア地域、ユーラシア大陸の北東部、中央部へと広げるアジアの「頭上祭礼装置」の研究成果を「宇宙を冠る」(報告書)にまとめ、アジアの造形文化の保存・継承・今日のデザイン教育ならびに創作活動の持続的発展へと繋げる。本研究で得たアジア「頭上祭礼装置」のチャートや図像、図解分析などのビジュアルデザインの実践を行い、新たなアジアンデザイン造形の研究方法論の構築を試みた。「宇宙を冠る」は以下の3点内容を根幹として構成する。 A)日本の多彩な民俗芸能における「念仏踊り(かぶる笠)」「花笠」「風流傘」のフィールドワークを基盤に、平安中期から江戸後期にかけて蓄積されてきた「シシオドリ」「念仏踊り」「花笠」「風流傘」の造形、図像、文献研究を重ねあわせ、その構成原理と信仰が神迎えの装置である笠鉾、山笠、山鉾、柱立てなど、山車の構造・造形にかかわりをもつものの比較研究。 B)韓国、日本北方の「頭上祭礼装置」やかぶる笠、花笠、風流傘の構造原理に似ている北東、中央アジアのシャーマンの「かぶりもの」とその関連する服飾、装身具の調査研究。 C)古代インド仏教の宇宙観において世界の中心にそびえ立つ宇宙山(須弥山)・宇宙樹の姿がとり込まれているチベット、ブータン、ネパール、ラダックにおける全宇宙を包摂する「シャナ」冠の構造原理の解明。また、韓国や中国、カンポジアにおける生命の誕生を象徴とする生命樹や花の冠などの研究内容である。 「宇宙を冠る」は年度末に印刷完成を予定している。
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