研究課題/領域番号 |
19H04429
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
村越 真 静岡大学, 教育学部, 教授 (30210032)
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研究分担者 |
井出 智博 北海道大学, 教育学研究院, 准教授 (20524383)
楠見 孝 京都大学, 教育学研究科, 教授 (70195444)
中村 正雄 大東文化大学, スポーツ健康科学部, 教授 (70269447)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 実践知 / 自然環境 / リスク認知 / PTG(ポスト・トラウマティック・グロース) / フィールド科学 |
研究実績の概要 |
①自然の中の活動における実践知質問紙の開発:インタビューデータより質問項目を作成するとともに、状況判断テスト図版と項目について協力者宮内佐季子と検討したうえで、11月に試行した結果に基づき2021年2月にオンライン調査システムにより実施した。調査では,登山経験,登山のリスクマネジメントの実践知,状況判断テスト,リスク志向性,批判的思考などについて調査した。参加者は熟達者群として,登山者対象の研修参加者および山岳協会,山岳連盟の会員約420名,対照群として,調査会社モニターの登山・ハイキング経験者約600名の合計約1020人である。この調査結果については分析中であるが、質の高いデータが得られると同時に、低リスク化でリスク評価が個人によって大きく異なるという興味深い結果が得られた。村越と楠見が担当した。 ②62次南極観測隊等で取得したデータをもとに、人が過酷な自然環境のリスクをどのようにとらえているかについての質的研究と量的研究の両方を実施した。質的研究では、KY写真、南極での歩行時のリスクについての発話データ、南極の氷河上での野外調査事の面接調査を対象に切片化したデータに対して、リスクマネジメントのプロセス(ISO31000)を参考にしてコード化し、その特徴を把握した。結果の一部は安全教育学会で発表した。またKYおよび危険評価テストの定量的結果をもとに、経験者と初参加者、初参加者の事前事後のリスク評価を比較することで、現地での経験によりリスク評価がどう変化するのかを明らかにした。結果は認知科学会大会で発表した。村越が担当し、学術研究員の河合美保と、満下健太の協力を得た。 ③過酷な自然体験の中でのもう一つの心理的結果であるPost Traumatic Growth(PTG)の研究に着手した。インタビューガイドを作成し、対象者を選定中である。調査については井出が担当した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
インタビューデータより質問項目から質問紙試行版を作成し、予備調査を経て、登山関係者420人、一般対象600人に対して質問紙調査を実施でき、自然環境でのリスクマネジメントに関する実践知概念を明らかにしうる質の高いデータを得た。一方、2020年度は、新型コロナウイルスによる南極地域観測隊の計画縮小により、第62次南極観測隊に参加することができなかった。このため、春先の海氷上での活動についての調査が実施できなかったことは大きな阻害要因であった。一方で、第61次及び第62次越冬隊の協力を得ることで、海氷上での行動などのウェアラブルカメラによる動画記録を約20時間分取得でき、またその一部については動画に基づくヒアリングも遠隔で実施できた。面接調査は部分的にしか実施できなかったものの、リスクの高い海氷上や春先の露岩での行動を記録する貴重なデータが得られた。 以上の理由から、(3)とした。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、最終年度に向けて以下の研究を推進する。 【1】昨年度実施した実践知質問紙調査の分析を進める。具体的には妥当性の検討および、状況判断図版によるリスク知覚の分析を進める。【2】過酷な自然環境のリスクの捉えについての質的研究と量的研究の成果をまとめ学会誌に投稿する。以上1・2は村越・楠見が実施する。【3】第63次南極観測隊に参加することで、現地での行動中の動画記録の取得とそれに基づくインタビューを行う。また昨年度(62次隊)の観測隊で行動中の動画記録を撮影した隊員が63次隊にも参加することから、往路でのインタビューが可能になることから、動画をもとにした聞き取りを継続する。3は村越が実施する。【4】PTGに関して、南極観測隊の安全管理隊員を対象とした聞き取り調査を行い、質的研究を実施する。村越の協力の下、井出が実施する。【5】南極観測以外の過酷な自然環境で活動する実践者の実践知抽出のためのインタビューを実施し、質的分析によって中核となる概念を抽出するとともに、それを実践や研修場面で利用可能になるように、パターンランゲージ(井庭)の手法で記述することを試みる。5は中村が実施する。また、最終年度には学会での企画シンポジウムを実施できるよう準備を進める。
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