研究実績の概要 |
高齢化が急速に進む日本において、記憶の減退は深刻な社会問題を引き起こしている。特にワーキングメモリ(WM)は注意と密接に連携し、会話・読書・計算など日常の様々な心的活動を支える重要な機能である。だが WM の神経的な基盤については未だに不明な点が多く、激しい議論が行われている。本研究はWM およびそれに関連する各種認知機能の脳内メカニズムを探ることを目的とする。 この目的を達成するため、視覚性ワーキングメモリ(visual working memory, 以下 vWM)を主な対象とした神経活動を記録・分析した。課題は change detection paradigm を用いた。この課題では、画面上に異なる色を持った幾つかの四角形(sample)を短時間提示する。それらを画面から消し、数秒の遅延期間をおいた後に、また同じ数の四角形を提示する(test)。test は sample と全く同じ場合もあれば、色の 1 つが変化している場合もある。被験者は色変化の有無を二択で答える。この課題を遂行するには、sample として提示された全ての四角形の色情報を、遅延期間が終わるまで正確に記憶する(vWMに保持する)必要がある。四角形の数が増えるにつれて、覚えなければならない情報が多くなるため、vWMへの負荷は大きくなる。 vWMへの負荷の増大に伴う脳内リズムを脳波(EEG)および脳磁図(MEG)で分析したところ、WMに深く関わる脳領域では、負荷の影響を受けて律動のリズムが速くなることが分かった(load effect)。この結果は英文国際誌に発表した。また別の実験において、記憶の保持期間を延ばしていくと、2秒を境に load effect が逆転する(負荷が小さいときの方が神経リズムが早くなる)という新しい現象を発見した。結果を論文としてまとめ、英文国際誌に投稿中である。
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