研究課題/領域番号 |
19H04430
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
野口 泰基 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (90546582)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 認知科学 |
研究実績の概要 |
高齢化が急速に進む日本において、記憶の減退は深刻な社会問題を引き起こしている。特にワーキングメモリは注意と密接に連携し、会話・読書・計算など日常の様々な心的活動を支える重要な機能である。だが ワーキングメモリの神経的な基盤については未だに不明な点が多く、激しい議論が行われている。本研究はワーキングメモリ およびそれに関連する各種認知機能の脳内メカニズムを探ることを目的とする。この目的を達成するため、以下のような研究を行い、言語性ワーキングメモリに関する神経活動を記録・分析した。 複数の単語を同時に記憶するとき、単語間に意味的な関連性があると、それらは1つのチャンクとして記憶される(たとえば「リンゴ」「ミカン」「バナナ」は「果物」という共通概念で括られる)。この意味統合を引き起こす脳の仕組みは不明である。本研究では意味的に関連する5個の単語を記憶・保持している時と、関連性のない5単語を保持している時の脳波を比較した。側頭葉におけるα・β帯域(8-30 Hz)の律動信号を分析したところ、後者では前者に比べて律動リズムが不規則になることが示された。つまり意味的に統合不能な単語群を記憶した時は、脳内で不協和を起こしたような波形が観察された。これらの結果は、(1) ある単語が持つ個々の意味素性(semantic feature)は、脳内で特定周波の律動信号としてコードされていること、(2) 意味素性を共有する単語群の記憶は律動信号の共鳴(協和)を引き起こすこと、を示唆する。成果は2021年度の日本基礎心理学会で発表した。論文としてまとめ、英文国際誌に投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度・2020年度に行った研究(視覚性ワーキングメモリに関する研究)の論文は査読が進み、国際誌に掲載される一歩手前まで来ているため。また2021年度に行った言語性ワーキングメモリの研究も結果が得られ、学会発表済み(論文準備中)であるため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は言語性ワーキングメモリの研究を継続・発展させ、単語だけではなく文刺激の記憶に関する研究も行う。ヒトが日常生活で扱う言語情報と同等の記銘材料(名詞句と動詞句から成る文刺激)を用いるため、得られる知見の一般性・応用性を高めることができる。また非侵襲的な脳刺激法を用いた因果的検証も行い、多角的なアプローチを試みる。得られた成果を取りまとめ、国際的な英文学術誌への投稿を目指す。
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