研究課題/領域番号 |
19H04435
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
船本 健一 東北大学, 流体科学研究所, 准教授 (70451630)
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研究分担者 |
立川 正憲 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学域), 教授 (00401810)
吉野 大輔 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院)301, 准教授 (80624816)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / 細胞・組織 / 生物・生体工学 / 流体工学 / ナノバイオ / 血液脳関門 / 微小血管網 / 虚血再灌流障害 |
研究実績の概要 |
酸素分圧・力学的刺激・化学的刺激の3つの因子を同時制御し、細胞群に対する複合作用の観察を可能にする3-in-1生体模擬チップ内で、ヒトの血液脳関門(BBB)の機能を有する3次元の微小血管網を構築することに取り組んだ。本チップはコインサイズであり、PDMSとカバーガラスにより流路を形成し、周囲環境からの酸素の流入を防ぐ目的でポリカーボネートフィルムを内包している。チップ内には、細胞外マトリクスを模擬するゲル流路(幅1,300μm)を挟むように細胞培養液を流す2本のメディア流路(幅500μm)を設けており、その鉛直上方にPDMSの層(厚さ350μm)を挟んで2本のガス流路(幅1,000μm)を配置している。流路はいずれも高さ150μmである。チップ内の酸素分圧は、ガス流路に酸素濃度を調整した混合ガスを供給することで、流路間のガス交換により制御する。チップ内のゲル流路に、血管内皮細胞とペリサイト、アストロサイトの3種類の細胞を混合したフィブリンゲルを配置し、共存培養することで微小血管網の構築を試みた。フィブリンゲル中の各細胞の播種密度とメディア流路に注入する細胞培養液の成分、細胞培養日数を変えて実験を行った。また、メディア流路に血管内皮細胞の単層を形成するとともに、フィブリンゲル内の微小血管網と接続させて細胞培養液が灌流するように、メディア流路に後から播種する血管内皮細胞の密度とタイミングも変えて実験を行った。一連の検討の結果、上述の3種類の細胞を12:2:1の割合で混合して播種し、播種後しばらくの間は血管内皮増殖因子を添加した細胞培養液を用いて7日間以上培養することで、灌流可能な微小血管網を構築できた。また、構築した微小血管網に蛍光標識デキストランを注入し、微小血管網からフィブリンゲルへの拡散を観察することで物質透過性を評価した結果、実際のBBBと同等の物質透過率が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度に計画していた3-in-1生体模擬チップ内で、ヒトのBBBと同程度の低い物質透過性を有する3次元の微小血管網を構築することができた。酸素分圧を変化させた場合の微小血管網の物質透過性の評価についても前倒しして取り組んでおり、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
3-in-1生体模擬チップ内でヒトのBBBを模擬する微小血管網を構築することが可能なったが、メディア流路上の血管内皮細胞の単層と接続させて、細胞培養液を灌流させることができる微小血管網を構築できる確率はまだ低い。この原因の一つとして、実験に用いたチップ内の2本のメディア流路が下流側で合流しており、ゲル流路の左右で圧力差が生じない構造であったことが原因として考えられる。血管内皮細胞は生体外マトリクス内において間質流に逆らうように遊走することが報告されており、間質流の作用がメディア流路の血管内皮細胞の単層とゲル流路内の微小血管網を接続するために重要な働きをする可能性がある。そこで、2本のメディア流路を下流で分離したデバイスも作製し、ゲル内の間質流の作用による力学的刺激が微小血管網の構築に与える影響と、灌流可能な微小血管網を高確率で構築するための実験条件についてさらに詳しく調べる。また、酸素分圧によるBBBの機能の変化を明らかにするため、チップ内のガス流路に酸素濃度を調整した混合ガスを供給することで酸素濃度を制御した場合の微小血管網の物質透過率を計測する。様々な酸素分圧の低酸素状態や、虚血再灌流による低酸素負荷と再酸素化を模擬した酸素分圧の時間変化を負荷する。虚血時における酸素濃度と持続期間、その後の再酸素化時の酸素濃度の上昇の度合と期間、虚血再灌流の繰り返し回数を変えて実験する。同時に、メディア流路に供給する細胞培養液の流量を変えることで、流れによる力学的刺激も変化させる。微小血管網の動態を顕微鏡によりタイムラプス観察し、微小血管網の形態と各細胞の生存率を評価するとともに、蛍光標識デキストラン溶液を注入して物質透過率を計測する。さらに、実験効率を上げるために、同時に複数のチップを用いて実験を行うためのプラットフォームの開発にも着手する。
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