てんかん発作発生プロセスにおける“final common path”と考えられている神経回路の興奮/抑制(Excitatory/Inhibitory; EI)バランスに焦点を当て,EIバランスを人為的に制御した神経回路をin vitro系に構成してその電気活動計測を実施している.これまでに,マウスiPS細胞を大脳皮質細胞に分化誘導する過程の薬理操作(SHH経路に対するアゴニスト,アンタゴニストの投与)により,興奮性細胞の割合をおおよそ50-80 % の範囲で制御することが可能になり,EIバランスに依存して大脳皮質に特徴的な同期バースト活動の特性が変化することがわかった.さらに,てんかん発作様活動の誘起を想定した薬理刺激としてGABAA受容体のアンタゴニストであるbicucullineを添加したところ,よく知られている急性応答を示した後,数日かけて時間的にも空間的にも活動が変化することがわかってきた.これらの結果を勘案し,今年度は空間パターンを高分解能で記録できる高密度電極アレイ(High-Density Micro-Electrode Array; HD-MEA)を導入,恒常的可塑性(homeostatic plasticity)の関与を想定した実験を行なった.bicuculline 添加後3日間の神経回路自発活動計測を実施,得られたデータにspike-sortingを適用して単一ニューロン活動を分離し,発火タイミングの相関解析によりシナプス結合強度を推定,その経時変化の検出を試みた.bicuculline 添加により減弱した抑制性結合強度が時間経過と共に増強方向に変化する例があることがわかり,恒常的可塑性の寄与を示す結果となった.
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