研究課題/領域番号 |
19H04438
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
奈良 高明 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 教授 (80353423)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 逆問題 / 核磁気共鳴画像 / 脳磁場 / 導電率 / 神経電流源 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,第一に,Magnetic Resonance(MR)を用い,頭部の導電率分布を非侵襲で計測する手法を確立すること,第二に,これに基づき,脳回や脳溝をまたぐ神経電流源に対し,その領域形状を推定する脳磁場・脳波逆問題解法を開発すること,以上二点である. 第一の課題である導電率分布の非侵襲計測法に関して,本年度は基礎理論の導出を行った.人体内部の導電率分布は空間的に緩やかにしか変化しないという仮定が設けられていた従来法に対し,我々は,人体のスライス断面方向にはこの仮定を設けない手法の開発に成功していたが,体軸方向の仮定は依然必要であった.そこで三次元的に完全に任意の導電率分布を再構成する手法を開発した.まず,観測される磁場の正方向回転成分に対し,それと双対な関係となる電場を導入することで,支配方程式であるマックスウェル方程式を観測可能な量とその双対量とで書き直した.更に,そのうちの一本が双対量の発散で与えられることに注目し,双対電場のヘルムホルツ分解を介することで,未知の導電率に対する積分方程式を導出した.これを解くことで,導電率分布に何の仮定を置くこともなく,空間的に非一様な導電率を再構成可能であることを示した.提案手法の有効性を数値シミュレーションおよびファントム実験で検証した. また,応用上重要となる磁場の位相のみからの再構成に関しても,導電率と誘電率の関係に関する従来法と同様の仮定の下,観測量から積分方程式を解いて導電率分布を再現する手法が導出できることを示した.さらに,二次元の場合ではあるが,境界上の電気特性を与えずに再構成する手法も開発した. 第二の脳磁場逆問題について,皮質と球面との写像に基づき皮質表面の局部的な電流源をパラメトリックに推定する手法に加え,局所的活動源と背景活動源が同時に存在するときに両者を分離して推定する反復計算法を開発した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の課題について,当初予定では,これまで開発してきた二次元問題に対する手法をそのまま三次元問題に拡張することを計画していた.しかしながらこの手法を用いると,特に磁場の位相のみを計測量とする場合に十分な精度での推定が困難であることが数値シミュレーションによりわかってきた.そこで研究費の繰り越しを行い,磁場の位相だけでなく振幅も計測できる手法に関しても根本的にアプローチを見直し,電場そのものを求めるのではなく,双対電場に対するヘルムホルツ分解により導電率に対する積分方程式を導出するアプローチを確立した.これに基づき,磁場の位相だけが計測できる場合も,数理的にはまったく同様の手法を構築することができ,単に従来法を拡張した場合よりも導電率を高精度に推定できることを確認できた.結果としては一年目の目標としていた課題が達成できたといえる. 第二の課題については,当初予定通り,局所的な注目領域だけでなく背景にも神経電流活動源があるときに対する手法を開発することができた. 全体として,おおむね順調に進呈しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
第一の課題について,人体内部で双対電場が零となる付近において,再構成される導電率画像に大きなアーチファクトが発生するという問題が残っている.これは我々の手法だけでなく,この分野で以前から指摘されている大きな課題である.ただし,脳のような複雑な構造を持つ場合,双対電場は零になってしまう場合でも,電場の全成分は必ずしも零にならないことが数値シミュレーションによりわかっている.したがって,もしも観測磁場を用い,双対電場ではなく電場の全成分に関する積分方程式を導出できれば,アーチファクトを低減できる可能性がある.そこで,観測磁場から,磁場および電場の全成分および導電率を同時に再構成する手法を開発する.まず,観測磁場として,正回転成分の振幅と位相が計測できる場合を仮定した上での理論を開発する.数値シミュレーションおよびファントム実験により提案手法の妥当性を検証する. 第二の課題について,これまで開発してきた手法は局所電流源と背景電流源を交互に推定するため,収束性は保証されていない.そこで脳の様々な部位に局所電流源があり,かつさまざまな背景電流源があるときの収束性を数値実験で検証する.さらに,収束性が保証されるよう,背景活動源もパラメトリックに表現した上で,局所電流源と背景電流源のパラメータの大域最適解を求める手法も構築する.
|