研究実績の概要 |
肝臓は生体の恒常性維持に寄与する重要臓器のひとつであり、その構成主要細胞である肝細胞を生体外で維持することは、医学分野での生理・病理の解明のみならず、医療/創薬分野における治療法/医薬品の開発にとって必須と考えられている。しかしながら、肝臓から分離した初代肝細胞は既存の一般的な培養方法ではその本来の機能を急速に失うため、多くの施設へ導入可能な新たな培養システムの構築が望まれている。本研究の目的は、細胞ファイバ技術を応用することによって、細胞分裂能と代謝・分泌能を維持したまま長期間にわたり初代肝細胞を培養することができるシステムを開発することである。細胞ファイバ技術とは、マイクロファイバ状の3次元組織を構築する技術である(Onoe H, Okitsu T, Takeuchi S, et. al. Nat Mater, 2013)。すなわち、マイクロ流体力学を応用してできる同軸2層流の内層に細胞と細胞外マトリックスを配置し、外層にアルギン酸を配置する。その後アルギン酸をゲル化させることで外殻(シェル)が形成され、直径約0.2mmのマイクロファイバ状の細胞封入体を作製できる。この細胞封入体を培養すると内核(コア)部分にファイバ状の3次元組織が構築される。以上の細胞ファイバ技術を用いたコアシェルマイクロファイバの作製は、単純な造りのデバイスで可能となるため、他施設への普及は容易であると考えられる。研究実施計画の3年目の課題は、1年目・2年目のラット初代肝細胞を用いた研究成果を基に、由来をラットからヒトに変更して、ヒト初代肝細胞用培養デバイスとしてコアシェルマイクロファイバを開発することを予定していたが、新型コロナウイルス感染症蔓延のため、2年目の課題の遂行が2022年末まで延期したこと、当該研究費の再繰越が連絡の行き違いにより期限を過ぎてしまったことにより、実施できなかった。
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