研究課題/領域番号 |
19H04441
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
西沢 望 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (80511261)
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研究分担者 |
口丸 高弘 自治医科大学, 医学部, 講師 (10570591)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | がん診断 / 円偏光 / 生体工学 / スピントロニクス |
研究実績の概要 |
本研究では、円偏光散乱を用いたがん診断技術の開発のため、①散乱機構の解明、②適用範囲の明確化、③実際の素子開発と実証に取り組んでいる。前年度までに①は完了したため、今年度は主に項目②の検証としてがんの深達度(垂直方向の分布)計測のためのシミュレーションに主に注力した。 1.生体組織の光学パラメータを実験的に計測し、シミュレーションの精度向上を行った。薄膜化したがん組織及び健常組織に対して積分球を用いて吸収係数と散乱係数を計測し、報告値と比較検証した後に次項のシミュレーションに導入した。 2.前項で得られたパラメータを用いて波長依存性を計算した。その結果、これまで検証してきた900 nm付近とは別に600 nm付近においても逆位相の大きな円偏光度差が得られることが明らかとなった。この2つの波長を用いて測定をすることでより高精度でがんを検出できる可能性が示唆された。 3.前年度後半に試行したがん/健常の二層構造に対する深達度計測のシミュレーションを更に進め、健常/がんの二層構造、さらには前項の結果を基にした600 nmでの計測に対し計算した。結果、いずれも初期がんの深達度を1.4mm程度までであれば0.2mm程度の、それ以上2.0mm程度までであれば0.3mm程度の分解能でがん深達度を見積もることができることが明らかとなった。 4.2層型の生体試料に対する光学測定も進めた。これまでの光学測定においては薄膜試料を鉛直に固定し水平面内に光学系を組んで実験を実施してきた。しかしながら、2層型試料は厚さがこれまでよりも数倍あるため、水平に試料固定し光学系を鉛直面内に組む必要がある。今年度はそのための光学系の再構築に注力した。本項は次年度も継続して行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度、シミュレーションプログラムの構築が予想以上に進展し、円偏光散乱技術の適用先をがん深達度計測に絞ることができたことを反映して、今年度は実験、シミュレーションの両面において深達度計測に集中して取り組むことができた。特にシミュレーションにおいては大きく進展した。高感度測定が可能な波長域の特定ができたため、円偏光光源開発における指針を得ることができ、またがん組織と健常組織における円偏光度差がいずれの光学配置においても0.2程度でなることから円偏光検出における目標をする分解能を得ることができた。これらは素子開発において非常に大きな指針である。また、がん/健常および健常/がんの二層構造における計測シミュレーションからも十分な深さ分解能が得られることが明らかとなった。現状の分解能及び検出限界深さが医療診断上のニーズを十分満たす見込みであることがわかった。一方で、二層構造の生体試料に対する光学実験は光学系の大きな変更を余儀なくされたため、今年度では計測までには至らなかった。全体としてみるとシミュレーションによる検証はほぼ完了し、次年度には光学実験によるがん深達度の実証に集中することができる状況までに至ったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、円偏光散乱方によるがんの深さ分解能計測を実験的に検証する。厚膜試料のために鉛直面内の光学系を構築する。この光学系では、試料を水平に固定し、鉛直面内に角度が可変な2本のアームを置き、それぞれに照射系と検出系を配置する。角度変調により照射点および検出点が変動しない光学系を組むことが肝要となる。構築した光学系を用いて二層型試料のがん層の厚さ計測を行い、シミュレーション結果との比較を行う。試料としては2種類を用意する。一つは生体模型であり、がん層の厚さを任意で変調した模型に対して計測を行い、がん層の厚さの見積もりが可能であるかどうかを検証する。生体試料の構築方法としては、モールドを用いたナノインプリント法および散乱体を混ぜた溶剤をスピンコートする方法を検討する。もう一つとして生体試料を用いる。がんと健常の生体試料を貼り合わせ二層構造を作成し、その試料に対してがん層厚の計測を行う。また前年度の結果を基に、波長依存性とくに600 nmでの計測も実施する。
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