研究実績の概要 |
脳では、記憶形成の過程で神経可塑性が誘導され、微視レベルの神経回路のリモデリングが起こる。水拡散強調画像法という核磁気共鳴法(MRI)技術でヒト脳組織内の解剖構造変化を捉えることができる。経頭蓋脳磁気刺激で誘導した神経可塑性変化と並行して脳部位で解剖構造変化を観察した。MRIで捉えた解剖構造変化が神経可塑性と関係があるのか分かっていない。MRIで観察した構造変化が記憶の神経可塑性と関係することを実証するために本研究課題を実施した。 本研究ではラットの海馬の空間記憶学習に実験系を用いた。空間記憶学習で海馬NMDA受容体の活性化が起こり、神経可塑性を誘導する。MRI構造変化が記憶成績と関係があるかを調べた。ラットにBarnes迷路課題を行わせた。その前後でMRI評価を行った。偽学習(同じ運動量で統制され、空間学習を行なっていない)のラットと比較して海馬でMRIシグナル変化が観察された (unpaired t test, 海馬内部の多重比較補正 p < 0.05)。シグナル変化は海馬背側の歯状核およびCA1領域から腹側のCA3領域に跨って見られた。しかも学習終了後も持続した海馬CA1領域のMRIシグナル変化はBarnes迷路課題の長期記憶成績と有意な相関関係を示した(学習群のみ、相関係数 0.62、 p = 0.004)。以上から構造変化を反映するMRIシグナル変化は記憶と関係すると結論づけた。次に神経可塑性とMRIシグナル変化の関係性を検証するため、学習中にNMDA受容体拮抗薬を髄腔内投与して神経可塑性の阻害を行った。対象コントロール群には空間学習を同様に行わせ、生理食塩水を髄液注入した。NMDA受容体拮抗薬投与群では学習の大きさが小さくなり、海馬MRIシグナル変化が小さい傾向を示した(p=0.06)。以上から、NMDA受容体活性化とMRIシグナル変化の関係性を支持した。
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