研究課題/領域番号 |
19H04452
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
須藤 亮 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (20407141)
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研究分担者 |
山下 忠紘 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (00827339)
谷下 一夫 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 名誉教授 (10101776)
三高 俊広 札幌医科大学, 医学部, 教授 (50231618)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 三次元組織工学 |
研究実績の概要 |
三次元組織工学において血管組織と実質組織、および血管組織と腫瘍組織の相互作用(血管相互作用)を解明することは極めて重要な課題であり、立体臓器の再生手法や新たながん治療戦略の立案につながる。そこで、本研究は、血管相互作用を基軸として、血管と三次元肝組織(実質組織)、および血管と胆管がんオルガノイド(腫瘍組織)の関係を明らかにすることによって、複数の組織が複合化した高次の三次元組織を構築する組織工学(三次元コンプレックス組織工学)の学術基盤を創生することを目的としている。これまでの研究で、マイクロ流体デバイスを用いて安定化した毛細血管とそれに接続する大型血管を構築した。しかし、大型血管は血管内皮細胞のみを用いた培養系であるため、新たに血管壁細胞を導入し、大型血管の安定化を図った。また、構築した血管と正常組織(肝組織)およびがん組織(胆管がんオルガノイド)の相互作用の検討を進めた。具体的には以下の知見を得た。①培養デバイスを作製し、ゲルの管腔構造を鋳型とした大血管構造と、ゲル内部に血管内皮細胞を埋め込むことで形成する微小血管を同時に構築した。次に、大血管構造にペリサイトや間葉系幹細胞を導入し、血管構造の安定性の観点からペリサイトが適していることを見出した。②マイクロ流体デバイスで胆管がんオルガノイドを形成し、血管およびリンパ管内皮細胞との近接培養を行った。この時、腫瘍環境を再現するために、予め機能不全化を誘導した内皮細胞を用いた。この機能不全化内皮細胞が胆管がんオルガノイドの浸潤に与える影響を定量的に評価したが、通常の内皮細胞と比較して大きな違いは認められないことが分かった。③血管相互作用の詳細な解析を可能とする新たな肝細胞組織の形成手法として、微細枠組み構造を利用した三次元培養法を開発し、肝細胞索様組織の構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は血管相互作用を基軸にした研究であるため、血管組織の構築と高機能化は重要な研究課題である。これまでは微小血管のみの培養系であったのに対して、大血管から微小血管へ接続する階層的血管構造を構築できるようなった。さらに、大血管に壁細胞を導入し、長期間培養が可能な培養系を確立した。また、実質組織(肝細胞)の培養については、微細枠組み構造を利用した新たな三次元培養法を開発し、肝細胞索様組織の構築に成功している。一方で、血管組織と腫瘍組織の相互作用としては、胆管がんオルガノイドと血管・リンパ管内皮細胞の共培養の研究が進展し、機能不全化血管内皮細胞を用いた時の血管相互作用の定量的評価が完了した。これらの結果を踏まえると当初の目的達成に向けておおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、本研究の基軸となる血管相互作用を調べるうえで重要な血管組織の構築と高機能化について中心的に取り組み、マイクロ流体デバイスを用いてヒト血管内皮細胞とヒト間葉系幹細胞の共培養を行い、壁細胞(ペリサイト)に被覆されて安定化した毛細血管網を構築した。また、拡大リモデリング機能を有する微小血管を構築し、階層的血管構造を構築するために、大型血管とリモデリング可能な微小血管を共存させる新たな培養デバイスを開発し、階層的な血管を構築するための手法を明らかにした。この血管網の組織工学における応用を考えると、灌流培養に組み込み、長期培養を検討する必要がある。また、構築した血管と正常組織(肝組織)およびがん組織(胆管がんオルガノイド)の相互作用について検討する。胆管がんオルガノイドに関しては腫瘍環境を再現する方向で研究を進め、肝組織に関しては三次元肝細胞組織と血管網を融合する手法の開発に取り組む。 ①直径数百マイクロメートルの管腔構造を有する三次元ゲルが内蔵された培養デバイスを作製し、ゲルの管腔構造を鋳型とした大血管構造と、ゲル内部に血管内皮細胞を埋め込むことで誘導する微小血管を同時に構築する。このとき、培養液を灌流する効果に着目し、血管形態の持続性に関して定量的に評価する。 ②マイクロ流体デバイスで胆管がんオルガノイドを形成し、血管およびリンパ管内皮細胞との近接培養を行う。この時、胆管がん周囲で高発現していることが知られているヒアルロン酸を培養の足場となるゲルに添加することによって、これらの内皮細胞が胆管がんオルガノイドの形態・成長・浸潤に与える影響を定量的に評価する。 ③血管相互作用の詳細な解析を可能とする新たな肝細胞組織の形成手法として、肝細胞・間葉系幹細胞・コラーゲンゲルビーズからなる三次元構造態(スフェロイド)を構築し、血管と融合する三次元培養法の開発に取り組む。
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