心筋組織工学における大きな課題は、人工的に作られた3次元心筋組織への酸素供給が不十分であることで、作製組織の厚さが100~200μmに制限されてしまうことである。 そのため、厚くより機能的な心筋組織を作製するためには、毛細血管の形成と成熟化を制御する技術が必要である。そこで生体内で毛細血管を構築させるin vivo pre-vascularization法による血管網導入法を開発し、心筋細胞シートの多層化実現により、血液循環の補助を可能とするカフ型立体心筋組織を作製した。拍動する心筋組織をカフ様に大血管外周へラッピング可能とするために、薄くしなやかな血管床を構築する目的で、1mm厚の増殖因子徐放性のゼラチン膜を利用した。徐放性ゼラチン膜を大腿動静脈とともに組織癒着防止エバールフィルムでカプセル化し、カプセル内へ毛細血管を誘導し、さらに増殖因子によって脆弱な血管を強固な毛細血管へ成熟させた。2週間の生体内インキュベーションの後に、構築された毛細血管への灌流量を増やし成熟血管を安定させる目的で動脈抹消側を結紮し、さらに1週間のインキュベーションを加えることによって、動脈から毛細血管を介し静脈側へ戻る、完全に独立した循環を持つ吻合移植あるいは異所への移動が可能な血管床の作製を行った。作製した血管床へ積層化心筋細胞シートを移植し移植グラフトへ血管が導入された後に、カプセル内へ多段階的に積層化心筋細胞シートの移植を行うことで厚いヒト心筋組織を構築した。最終的には、薄い血管床で構築した厚い心筋組織を大動脈外周へラッピングすることで、自発的な収縮によって独立した圧力を発生させることができる機能的な心筋カフ(ポンプ)をを実現した。本研究により、循環系をサポートする可能性のあるポンプをtissue engineeringによって作製できることを示した。
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