研究課題/領域番号 |
19H04454
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
中山 正道 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (00338980)
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研究分担者 |
増田 信奈子 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (30342851)
関根 秀一 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (60541737)
原口 裕次 東京女子医科大学, 医学部, 特任准教授 (80272251)
秋元 淳 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (80649682)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腫瘍モデル / 細胞パッチ / がん組織工学 / 灌流培養 / 担癌モデル動物 |
研究実績の概要 |
薬物スクリーニングの精度と重要性を高めるためには、実際のがん組織の形態的・機能的特徴を有する組織モデルを効率的に作製する新しい技術が必要である。本研究では、温調制御した遠心操作により、がん細胞およびその関連細胞を高密度充填組織化したがん前駆組織体(がん細胞パッチ)を作製する。がん細胞パッチの構造的・機能的特徴を明らかにしながら、より生体がんに近いin vitro灌流がん組織モデルとin vivo移植がんモデルを構築することで、創薬研究や個別化医療への応用に向けた高い生産性と汎用性、低コスト化を実現する新しいがん組織工学を追究する。 37℃の温調制御下において、各種ヒト癌由来細胞株をさまざまなウェルサイズの培養基材に添加後、過重力付加と作用時間を変化させることで効率的な細胞パッチの作製について検討した。とくに培養皿に4穴のシリコーン樹脂製チャンバーを設置することで、小動物移植用の細胞パッチ組織を均一に複数個同時に作製できることを明らかにし、免疫不全小動物への移植実験の準備段階にある。また、機能性ブロック共重合体を物理コートした低細胞吸着性基材について検討し、これを用いることで緩やかなピペッティング操作で細胞パッチを基材から容易に回収することが可能となった。現在、ゼラチンゲル支持体を利用したがん細胞パッチの生体移植法を検討中である。一方、小動物へのがん細胞パッチの移植効率と腫瘍形成能を低コストでかつ効率的にバイオイメージングするために、赤色蛍光タンパクを発現するがん細胞を作製中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度におけるがん細胞パッチの作製法を発展させ、培養皿に4穴のシリコーン樹脂製チャンバーを設置することで、同時に複数個(最大16個)のパッチ組織を均一に作製できることが明らかとなり、将来的に高い生産性が期待された。このとき、細胞数を調節することで、組織厚が異なる5ミリメ-トル径の細胞パッチの作製に成功し、免疫不全小動物への移植実験の準備段階にある。また、温度応答性あるいは両親媒性ブロック共重合体をスピンコート法でナノ薄膜形成させた低細胞吸着性基材について検討し、これを用いることで緩やかなピペッティング操作で細胞パッチを基材から容易に回収することが可能となった。得られた細胞パッチは、薄型ゼラチンゲル支持体に吸着させることで、支持体ごと生体組織に貼付移植することが可能であり、1日後にはゼラチンゲルのみを被移植動物の体温で溶解すること可能である。この手法を利用して免疫不全動物への移植実験を進行中である。一方、ルシフェラーゼ発現細胞を小動物に移植した場合、高額なバイオイメージング試薬の購入費が必要となる。これを改善するために、高輝度でかつ安定な蛍光タンパクRFPを発現するがん細胞を作製し、低コストで小動物へのがん細胞パッチの移植効率と腫瘍形成能を評価する手法を検討中である。 本年度は、新型コロナ感染症防止にともなう所属機関における研究活動の制限が影響し、研究進捗の遅れが生じる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
がん細胞パッチの作製では、ヒト由来がん関連細胞(がん細胞、がん線維芽細胞、血管内皮前駆細胞など)を37℃で遠心操作を行うことで細胞パッチ化する。パッチのサイズと厚みは、培養容器の底面積と細胞数により調節する。細胞―細胞間ジャンクション形成が脆弱ながん細胞株を用いた場合、作製した細胞パッチが崩壊しやすいことが明らかになっている。そこで、細胞パッチを安定に培養・回収するためのプロトコールの確立と培養器材の開発を行う。がん細胞パッチの免疫染色した薄切切片を利用して組織学的解析を行うとともに、細胞パッチ組織内における血管内皮細胞のネットワーク形成能などの3次元共培養系としての特徴を明らかにする。 がん細胞パッチ移植による移植がんモデルの構築では、がん細胞パッチの生着率と腫瘍形成能の検証のために、皮膚切開した免疫不全小動物の皮下へ移植する。このとき、細胞懸濁液を同箇所に注入する手法と比較する。細胞パッチを構成するがん細胞に蛍光タンパク遺伝子をトランスフェクションすることで、低コストで移植細胞がバイオイメージングできる手法を検討する。また、腫瘍薄切切片を免疫染色法で組織学的観察を行いつつ、細胞パッチ移植法の有効性を明らかにする。 in vitro腫瘍モデルの検討では、流速や培養液組成などの基礎条件を最適化しつつがん細胞パッチの灌流培養を行う。静置培養と比較して、組織厚の違いや形態学的変化および分子生物学的特徴を明らかにする。
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