研究課題/領域番号 |
19H04455
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
八木 高伸 早稲田大学, 理工学術院, 主任研究員(研究院准教授) (00468852)
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研究分担者 |
坂口 勝久 早稲田大学, 理工学術院, 准教授(任期付) (70468867)
中村 匡徳 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20448046)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脳動脈瘤 / リモデリング / 病的リモデリング / 血栓 / 血流 / 平滑筋細胞 / 細胞死 / 血管疲労 |
研究実績の概要 |
本年度は、(1)ヒト病理組織の分析、(2)動物実験系の開発、(3)生体外実験系の開発、(4)計算力学モデルの開発に対して、下記の実績を得た。(1)7症例の透過電顕観察および数値流体解析を実施した。瘤組織は層構造からなりその層は浸潤、遊走、増殖、伸長、変性、壊死という特徴で区別することができると分かった。血流衝突部は菲薄部と一致し、そこでの組織は多層化していないことも観察できた。衝突流が血栓形成を阻害することでリモデリングを破綻させていることを示唆している。(2)SDラット(8-12wk)の腹部大動脈にエラスターゼ処置することで動脈瘤モデルを構築する技術を確立した。当該モデルは約2wkを経てサイズが拡大し、その後サイズが安定ないしは縮退する性質があることを見出した。透過電顕分析したところ、ヒト組織の肥厚部と類似した所見をえた。すなわち、血管壁が二層に多層化し、一層目は浸潤層、二層目は増殖層であった。当該モデルはエラスターゼによる損傷が経時間的に治癒していく過程を見ているものであることが分かった。(3)力学負荷をかけない状態で腹部大動脈を2週間培養し,その間でのコラーゲン構造および力学特性の変化を調べた.二光子顕微鏡観察より,2週間ではコラーゲンの構造は大局的に変化しないことがわかった.また,引張試験により血管組織のヤング率の変化を調べたが,実験精度を考慮すると,ヤング率に有意な変化はなかった.以上より,無負荷状態の培養では,2週間では血管特性が変化しないことがわかった.(4)血流刺激に起因する血管壁の壁構造リモデリング反応を考慮できる計算力学モデルを構築した.具体的には,血管壁の硬さ,厚さ,細胞増殖の3つの因子が,血流による壁面せん断応力の関数として変化するとした.モデルを用いて,血流と血管変形を相互に計算することにより,瘤状の隆起を血管分岐部に形成することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、(1)ヒト病理組織の分析、(2)動物実験系の開発、(3)生体外実験系の開発、(4)計算力学モデルの開発を行った。(1)はヒト瘤組織の層分類に成功し、菲薄部と肥厚部で血流様式が異なるという予想された結果を導出できた。(2)は肥厚性リモデリングの導出およびその経時的病理形態相互関係のデータ化を達成した。菲薄性リモデリングは次年度の課題となった。(3)は無負荷環境でラット腹部大動脈を長期器官培養する技術および二光子顕微鏡で膠原線維量を定量化する技術を構築した。(4)は血管リモデリング反応に介在すると考えられる因子群をカップリングさせた計算モデルを開発した。これらの成果により本研究はおおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
(1)ヒト病理組織と動物モデルの比較による機構解明:ヒトとラットの比較を行う。具体的には、菲薄部と肥厚部に応じてヒトとラットで比較し、整合性と相違性を検証する。菲薄部は血流による血栓阻害を介したリモデリング破綻、肥厚部は血栓生着能を有することによるリモデリング維持のそれぞれの機構とストレスを明らかにする。 (2)生体内実験、生体外実験による血管スティフネス時間応答モデルの開発:生体内実験では、まず、菲薄部を導出できる実験系を見出す。そのうえで、菲薄部と肥厚部のそれぞれで形態学的時間変化(成長速度)を導出し、血管スティフネスと関連づけることにより時間応答モデルを開発する。生体外実験では、ラット腹部大動脈に生体外で拍動伸展負荷を作用させ、長期培養を行うことで膠原繊維の疲労過程を明らかにする。そのうえで膠原線維の疲労と血管スティフネスの関係性を導出する。 (3)スティフネス応答モデルの実装とリモデリングシミュレータ開発:生体内実験で導出した動脈瘤モデルの経時間的形態・病理データを比較対象物として、前年度に構築した計算力学モデルの妥当性を評価する。現象論としての整合性を確保したのちに、時間スケールの整合性の一致を図る。
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