前年度までに、二重疎水性エラスチン類似ポリペプチドGPGが形成するハイドロゲルの動的粘弾性特性(時間依存性、ひずみ依存性、周波数依存性、チクソトロピー性)をレオメーターを用いて明らかにした。さらに、ゲルの網目成分であるGPGナノファイバーを化学架橋したときのチクソトロピー性の変化から、ゲルの自己修復特性(高ひずみ条件で液状化させたのち、低ひずみ条件でゲルの状態を回復した際の、初期ゲルの貯蔵弾性率に対する自己修復ゲルの貯蔵弾性率)の向上を確認した。 本年度は、ゲルに包埋した臓腺癌細胞PANC-1が、GPGに細胞接着性配列GRGDSを付加した誘導体であるGPG3のハイドロゲル中で増殖性を持つことを確認した。細胞接着性配列を持たないGPGゲル中ではPANC-1の増殖は見られなかったものの、細胞は培養1週間後にも生存しており、スフェロイドを形成した。ゲルのチクソトロピー性を利用して、温和なピペッティング操作のみでスフェロイドをゲルから単離できた。さらに、動的粘弾性測定により、ゲルに細胞を包埋した複合体では、貯蔵弾性率および自己修復特性がゲル単独の場合と比較して向上することを見出した。細胞の混合によるレオロジー特性の向上はコラーゲンゲルでは見られず、GPGゲルに特異的であったことから、本エラスチン類似ポリペプゲルの特色の一端を明らかにできたと言える。さらに、GPGゲルへのヒト皮膚線維芽細胞の包埋と培養にも成功した。 以上の成果の一部について特許出願を行った。
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