研究課題/領域番号 |
19H04472
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
長崎 健 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (30237507)
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研究分担者 |
立花 太郎 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (80311752)
中西 猛 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (20422074)
真田 悠生 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (50738656)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ホウ素中性子捕捉療法 / 二重特異性抗体 / インビボイメージング / 体内動態 / 腫瘍集積 / 担がんマウス / 腫瘍増殖抑制効果 |
研究実績の概要 |
前年度までに、BSHとがん抗原Her2またはEGFRに対する二重特異性抗体の二種類の作製に成功した。EGFR高発現A431細胞をヌードマウスの後肢大腿部皮下に移植し定量的な担がんマウスの作製に成功し、近赤外蛍光標識BSH-EGFR二重特異性抗体の腫瘍組織への集積をインビボイメージングにて確認した。そこで今年度は、BSH-EGFR二重特異性抗体を尾静脈投与後、近赤外蛍光標識BSH-BSAを順次投与し体内動態を観察した。その結果、弱いながらも蛍光標識BSH-BSAの腫瘍組織への集積を確認した。次に、A431細胞担がんヌードマウスにBSH-EGFR二重特異性抗体とBSH-BSAを順次投与後、京大原子炉にて中性子照射を行ったが、腫瘍増殖抑制効果は確認出来なかった。原因解明のためにインビトロでA431細胞に対するBSH-EGFR二重特異性抗体とBSH-BSA処理後の中性子照射実験を行った結果、BNCT効果が現れる培地の最低ホウ素濃度は10 ppmであることが判明した。A431細胞担がんマウスに対するBSH-EGFR二重特異性抗体とBSH-BSA を用いたBNCTでは静脈投与直後の血中ホウ素濃度は1 ppm以下にであり、BSH-BSA投与量が不充分であったことが原因と推察された。一方、昨年度は作製に至っていなかったHer2高発現細胞移植担がんマウスの作製は移植細胞をSKBR3細胞からSKOV3細胞に変更することで担がんマウスの作製に成功した。SKOV3細胞担がんマウスにBSH-Her2二重特異性抗体そして、ホウ素濃度240 ppmであるBSH-BSA溶液を0.2 mL尾静脈投与後、京大原子炉にて中性子照射を行った。その結果、照射投与後30日後にはポジティブコントロールのBPA投与群よりも高い増殖抑制効果が確認された。しかし、その後観察を継続すると、腫瘍の再増大が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Her2高発現細胞移植担がんマウスの作製に手を焼いていたが、移植細胞をSKBR3細胞からSKOV3細胞に変更することで担がんマウスの作製に成功した。また、A431細胞を用いたインビトロ中性子照射実験にて、細胞傷害性を有意に発揮させるためには培地中のホウ素濃度が10 ppm以上必要であることが判明した。そこで、担がんマウスを用いたBNCT効果検証実験において、ホウ素薬剤であるBSH-BSA投与量をこれまでより10倍以上(それでも、臨床研究で用いられているBPAと同じホウ素投与量)で行うことで、抗BSH-Her2二重特異性抗体、そしてBSH-BSA処理による腫瘍増殖抑制効果を確認するに至った。これらの成果によりBioMedical Forum 2022にて「BSHとEGFRに対する二重特異性抗体の機能評価」の題目で優秀ポスター賞を受賞することができた。 しかし、照射30日後以降72日までの経過観察を行ったところ、BPAと同様に腫瘍組織の再増殖が確認された。この原因の一つとして、がん関連マクロファージ(TAM)の関与が挙げられる。TAMの特にM2マクロファージはがん微小環境においてがん細胞などとの相互作用によりがん細胞の悪性化(浸潤・転位・免疫抑制)に関与することが近年明らかにされている。今後、TAM極性制御によるがん微小環境の悪化を防ぎ、がん免疫活性を増大し、BSHとがん抗原に対する二重特異性抗体を用いたBNCTにおける併用増感効果を検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今回、担がんマウスに対するBSHとがん抗原に対する二重特異性抗体を用いたBNCTにおいて、一時的な腫瘍増殖抑制効果が見られたものの、その後再増殖し、完治することはなかった。その原因の一つとして、がん関連マクロファージ(TAM)の関与が挙げられる。TAMの特にM2マクロファージはがん微小環境においてがん細胞などとの相互作用によりがん細胞の悪性化(浸潤・転位・免疫抑制)に関与することが近年明らかにされている。一方、M2マクロファージにおいてはbeta-1,3-グルカン受容体である細胞膜タンパクdectin-1が過剰発現していることが知られている。今年度得られた知見をもとに、TAM M2→M1極性制御剤をbeta-1,3-グルカンをキャリアとするDDSにより効率的・選択的にM2マクロファージに送達し、TAM極性制御によるがん微小環境の悪性化を防ぎ、がん治療におけるがん免疫活性を増大し、BNCTにおける併用増感効果を検討すべく研究計画を立てている。しかし、本研究課題において2022年度はこれまでの研究のデータ整理・解析そして総括期間で有り、研究費も不充分であるため、新たな研究費を獲得し、TAM極性制御とBSHとがん抗原に対する二重特異性抗体を用いたBNCTのハイブリッドがん治療の確立を目指す。 また、充分なホウ素薬剤の腫瘍組織への集積が確認出来ていない別の理由として、我々がラビットリンパ球から単離し使用している抗BSH抗体のBSHへの親和性(Kd:100 nM)も一つである。より高親和性の抗体を得るべく、未確認のラビットリンパ球から抗BSH抗体の単離を行う。
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