研究課題/領域番号 |
19H04485
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 浩基 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (70391274)
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研究分担者 |
櫻井 良憲 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (20273534)
川端 信司 大阪医科大学, 医学部, 准教授 (20340549)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 中性子捕捉療法 / BNCT / 品質保証 |
研究実績の概要 |
医療機器の販売承認が得られたサイクロトロン型熱外中性子源の適応部位は、頭頸部がんに限られているが、装置の増加に伴い、今後は表層がん、体幹部への照射へ適応拡大が期待される。BNCT用加速器中性子源は1種類の中性子ビームしか生成することができないため、中性子の特性上、治療深度・領域を変更することが困難である。また適応拡大を考慮した中性子ビームに対する品質保証方法が確立していない。 本研究においては表層がんに対しては新規BNCT用ボーラス、深部照射に対しては多門照射の最適化を行うことで、治療深度・領域を自由に変更可能(オーダーメイド)な照射方法を開発することと、その品質保証を確立することを目的とする。 令和元年度は表層に対する照射方法としてボーラスの新規開発、深部の照射に対する多門照射の最適化を行った。本研究においては、表層のがんに対する照射方法として水素を多く含むハイドロゲルを新規BNCTのボーラス材として適応を考えた。ハイドロゲルの熱中性子減速能に関するデータはないことから、水ファントムを用いた照射試験を実施することで、水と等価な減速能力を有することを確認することができた。また、足底部の表層がんを想定して、ボーラスを設置した照射を行い、有効性を確かめることができた。照射中心の熱中性子束が高く、端にいくにつれて減少することから、端の方のボーラス厚を増やすことで熱中性子束を均一にすることができることをシミュレーションにより確認した。このハイドロゲルは作成時に硬化させる前に、自由に形を変更できることから、最適化したサイズのBNCT用ボーラス材を作成することが可能となる。 多門照射に関しては、肝臓の症例を例として、1、2,3門と変化させた場合における治療計画を実施した。3門照射を行うことで、腫瘍の線量分布が向上し、深部位置における線量を向上させることができることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたボーラスを用いた表層がんへの熱中性子分布の均一性の試験と、多門照射の最適化の検討を実施することができた。ボーラスについては実際に臨床で用いる際に必要となる熱中性子減速能を実験的に明らかにすることができ、今後の研究においてもこのデータを適応することができると考えている。 多門照射の最適化に関しては門数を増やすことで線量分布を向上できることは確認できたが、照射のインターバルの患者セッティングに必要な時間などを新たなパラメータとして考慮する必要が出てきた。今後は実際の臨床のことも考慮に入れながら検討を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度で実施した新規ボーラス及び多門照射に対する品質保証方法を確立する。 現在、BNCT における品質保証方法は煩雑な金の放射化法が用いられているが、病院の臨床の現場においては、簡便、迅速かつ正確な熱中性子束の測定方法が望まれている。そこで本研究においてはリアルタイム中性子モニターを用いた品質保証方法を提案する。これまでに微小なLiCAFシンチレータと石英ファイバーを用いたリアルタイム中性子モニターの開発を実施し、BNCT の照射場において10^9 (n/cm2/s) オーダーの熱中性子束をガンマ線バックグランドから弁別して測定できることを示してきた。このモニターは直径2mmと非常に小さいことから、中性子の場を乱すことなく測定可能である。 品質保証を行う上で、BNCTの場合においては水ファントムを用いて、水中の熱中性子を多点で測定することが望まれている。本年度においては、実際の症例に近い水ファントムを3Dプリンターを用いて形成し、令和元年度で構築したボーラスを設置した照射や、多門照射を行う際にリアルタイムで一度に多点の情報を得るシステムを開発する。現状のリアルタイム中性子モニターは単チャンネルであるため、これを多チャンネル化し、ファントム内に設置する。また、多チャンネルの光電子増倍管、アンプ、波高分析器を構築することによって多点で測定可能となるシステムを構築する。治療計画との比較を行うことで必要な点数、位置などの探索を行い、簡便かつ正確な品質保証方法を確立する。 最終年度には令和元、2年度の研究成果をもとに、適応可能な臨床の照射部位を探索し、フィードバックをかけてボーラス開発、多門照射の高度化を行い、最後に成果をとりまとめる。
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