研究課題/領域番号 |
19H04486
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
山本 達之 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 教授 (60230570)
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研究分担者 |
佐藤 英俊 関西学院大学, 理工学部, 教授 (10300873)
石原 俊治 島根大学, 学術研究院医学・看護学系, 教授 (80263531)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ラマン分光法 / 好酸球性食道炎 / 非生検的診断法 / エオジノフィルペルオキシダーゼ / ラマンプローブ |
研究実績の概要 |
患者数が近年増加している好酸球性食道炎は,食道粘膜に好酸球が多数浸潤して炎症を引き起こす遅延型食物アレルギー性疾患の一種である。現在唯一の確定診断法は,食道粘膜の生検による病理組織診断であるが,診断基準が明確でないため,多数箇所からの生検が必要である。本疾患の患者は,多くが高齢者であり,抗血栓薬の服用者が多い。このため,出血を伴う生検が大きな問題となっている。我々は,好酸球にのみ含まれるエオジノフィルペルオキシダーゼ(EP)のラマンスペクトルの有無によって,患者負担が少ない非生検的新規診断可能な手法を開発し,内視鏡に組み込み可能なファイバスコープラマン装置の開発と診断ソフトウェアの開発を目指している。 先ず,ヒト生検試料のラマン測定:EPの吸収帯(630 nm)に重なるレーザ波長(632.8 nm)で,EPのラマン強度が通常の数万倍に増強される共鳴ラマン条件下で,マウスやヒトの食道組織のラマンスペクトル測定が可能であることを明らかにした。測定には,我々が独自開発した,医療ラマン測定装置を用いた。 臨床応用を目指す際に必須な技術である自動測定技術を確立するために,任意の点のラマンスペクトルを,XYZの3方向に駆動可能なピエゾ駆動ステージを活用して,深さ方向を変えながら測定した(特許申請中)。カバーガラス,ヒト生検試料,スライドガラスに特徴的な,各ラマンスペクトル強度の深さ依存性を自動解析して生体組織の存在する深さを確定した。 測定したラマンスペクトルに,EPのラマンスペクトルが含まれているか確認するために必要な,非負拘束多変量解析法(MCR-ALS)の手法を用いたソフトウェアの開発と精度の向上を目指した。 内視鏡に挿入可能な,中空ラマンプローブの開発を目指し,装置の設計を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エオジノフィルペルオキシダーゼ(EP)由来のラマンスペクトル測定:酸球性食道炎のモデルマウスの食道組織のラマンスペクトル中に,好酸球にだけ観測されるエオジノフィルペルオキシダーゼ(EP)由来のラマンスペクトルを測定することができている。 自動ラマンスペクトル測定ソフトウェア開発:我々が独自に開発した医療ラマン装置を用いて,自動測定ソフトウェアに基づいた自動測定が出来ている。しかし,現状ではカバーガラス,生体組織,スライドガラスの区別が出来ない場合があるため,自動測定の精度を高める必要がある。 多変量解析法(MCR-ALS)に基づいた純粋ラマンスペクトル成分の抽出:ヒト血液から分離した白血球の中から,好酸球を判別可能であることも明らかにすることができた。測定したラマンスペクトルに含まれている多数の成分から,脂質,一般のタンパク質,核酸などと区別して,EPのスペクトル成分を抽出表示するためのソフトウェア(MCR-ALS)の開発を行うことができている。 内視鏡に組み込み可能なファイバラマン装置の開発:内視鏡に組み込み可能なファイバラマン装置を開発するための基礎的データを集積するための環境はほとんど整えることができたが,ファイアバラマン装置開発はまだ進んでいない。これは,現在試みている中空プローブによって,感度よくラマンスペクトル測定を行うための条件が見つかっていないためである。
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今後の研究の推進方策 |
好酸球性食道炎のモデルマウスの食道組織のラマンスペクトル中に,好酸球にだけ観測されるエオジノフィルペルオキシダーゼ(EP)由来のラマンスペクトルを測定することができた。我々が独自に開発した医療ラマン装置を用いて,自動測定ソフトウェアに基づいた自動測定が出来た。しかし,現状ではカバーガラス,生体組織,スライドガラスの区別が出来ない場合があるため,自動測定の精度を高める必要がある。自動測定精度の向上は,ラマン分光学の専門家でなくてもラマンスペクトル測定とEP存在の診断を行うために必須な条件である。このため,今後,自動測定の精度向上に力を入れる予定である。 ヒト血液から分離した白血球の中から,好酸球を判別可能であることも明らかにすることができた。測定したラマンスペクトルに含まれている多数の成分から,脂質,一般のタンパク質,核酸などと区別して,EPのスペクトル成分を抽出表示するためのソフトウェア(MCR-ALS)の開発を行うことができている。現在のMCR-ALSが正常に動作するためには,操作者による判断が必要で,完全な自動動作を実現できていない。このため,今後は,MCR-ALSの自動動作性を高める予定である。 内視鏡に組み込み可能なファイバラマン装置を開発するための基礎的データを集積するための環境はほとんど整えることができた。従って,今後は内視鏡に組み込み可能なファイアバラマン装置の設計の完了と開発に力を入れる予定である。
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