尿中のプロテインキナーゼCαを用いた尿路上皮癌の新規バイオマーカーの開発

2019 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 19H04488
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 江藤 正俊 九州大学, 医学研究院, 教授 (90315078)
• 研究分担者: 村田 正治 九州大学, 先端医療オープンイノベーションセンター, 教授 (30304744) ; 姜 貞勲 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (50423512)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: 癌 / 膀胱 / バイオマーカー / 尿

研究実績の概要

尿路上皮がんは我が国において毎年21,000人が新たに発症し、年間の死亡者数は8,000人を数えている。患者数も増加傾向にあり、2020年には年間7万人に達している。一方で、血尿などの症状がない場合は見逃されやすく、また治療後の再発率も高い(60-85％)ことが特徴である。その診断には肉体的・精神的な苦痛を伴う膀胱鏡検査が必須となっており、より簡便で精度の高い診断法の開発が待ち望まれている。本研究では尿中に含まれるリン酸化酵素PKCαに着目し、そのバイオマーカーとしての機能評価とセンサデバイス技術によるリキッドバイオプシー診断システムの開発を目指している。当該年度は尿路上皮がんの診断におけるPKCαの臨床的有用性を確認し、活性型PKCαに対するポリクローナル抗体の作製にも成功した。さらにその抗体使ったバイオセンサの試作を行い、抗体修飾やマスキングに関する基礎検討を行った。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

患者68名から採取した早朝尿を処理し、尿中に含まれるPKCαの活性度を、その基質ペプチドを使った方法で定量的に評価した。対照群として64症例に対して、同じプロトコールで尿中のPKCα活性を評価した。これらの結果から算出した、尿中の活性型PKCα値に基づく尿路上皮がん診断法の感度は82.4％、特異度90.6％、陽性的中率90.3％、陰性的中率82.9％、正診率86.4％であった。これらのデータから、活性型PKCαの診断法としての精度は十分に高く、その臨床的有用性は非常に高いことが確認できた。
また、活性型PKCαをより簡便に検出するためのバイオセンサの開発も順調である。このバイオセンサの検出原理は基板上に吸着した物質の重さと距離に依存するため、ELISA法のなかでも直接法と競合法がもっとも現実的な手法となる。基板への修飾法や基質ペプチドの高分子量化による高感度化等についても検討したが、結果としてもっとも高い感度を示したのは競合法であった。競合法は特異性の高い抗体が一つだけあれば良く、今回の基質ペプチドのように比較的小さな分子を標的にする場合に適している。また基質や抗体の量を調節することで、診断しきい値近辺でのシグナル応答を最大化することもができる。さらに直接法と比較してサンプル中に含まれる夾雑物の影響を受けにくく、臨床検体の評価に最適である。

今後の研究の推進方策

引き続き、活性型PKCαに対するバイオセンサの開発を進める。すでに承認済みの臨床研究計画書PKCα検出用バイオセンサを測定法として追加し、承認を得られ次第、その臨床的有用性の評価に着手する。本研究は専門分野を超えた医工連携研究として推進しており、最先端の技術を積極的に導入しながら臨床現場の課題解決を目指してゆく方針である。

研究成果

• [雑誌論文] Predictive Factors for Residual Cancer in Second Transurethral Resection for Non-muscle-invasive Bladder Cancer. (2019)
  • 著者名/発表者名: Akitake M, Yamaguchi A, Shiota M, Imada K, Tatsugami K, Yokomizo A, Naito S, Eto M:
  • 雑誌名: Anticancer Res 巻: 39 (8) ページ: 4325-4328
  • DOI: 10.21873/anticanres.13598
  • 査読あり
• [雑誌論文] Nivolumab in patients with unresectable locally advanced or metastatic urothelial carcinoma: CheckMate 275 2-year global and Japanese patient population analyses. (2019)
  • 著者名/発表者名: Ohyama C, Kojima T, Kondo T, Naya Y, Inoue T, Tomita Y, Eto M, Hisasue S, Uemura H, Obara W, Kikuchi E, Sharma P, Galsky MD, Siefker-Radtke A, Grossfeld G, Collette S, Gooden K, Kimura G:
  • 雑誌名: Int J Clin Oncol 巻: 24 (9) ページ: 1089-1098
  • DOI: 10.1007/s10147-019-01450-w
  • 査読あり
• [雑誌論文] Impact of Previous, Simultaneous or Subsequent Bladder Cancer on Prognosis after Radical Nephroureterectomy for Upper Urinary Tract Urothelial Carcinoma. (2019)
  • 著者名/発表者名: Kuroiwa K, Inokuchi J, Nishiyama H, Kojima T, Kakehi Y, Sugimoto M, Tanigawa T, Fujimoto H, Gotoh M, Masumori N, Ogawa O, Eto M, Ohyama C, Yokomizo A, Matsuyama H, Ichikawa T, Mizusawa J, Eba J, Naito S; Urologic Oncology Study Group of the Japan Clinical Oncology Group (JCOG):
  • 雑誌名: J Urol 巻: 202 (6) ページ: 1127-1135
  • DOI: 10.1097/JU.0000000000000422
  • 査読あり
• [学会発表] 筋層浸潤膀胱癌における治療経過と血中循環 DNA(cfDNA）の推移. (2020)
  • 著者名/発表者名: 塚原茂大、塩田真己、内海 健、松本信也、野田 望、松元 崇、門司恵介、柏木英志、江藤正俊
  • 学会等名: 第4回Liquid Biopsy研究会
• [学会発表] pT2-4上部尿路上皮癌に対する術後補助化学療法の意義-JCOG1110A研究より． (2019)
  • 著者名/発表者名: 黒岩顕太郎、猪口淳一、西山博之、小島崇宏、筧 善行、杉元幹史、谷川俊貴、藤元博行、後藤百万、水澤純基、江場淳子、江藤正俊、内藤誠二
  • 学会等名: 第107回日本泌尿器科学会総会
• [学会発表] Combination immunotherapy for advanced and chemoresistant mouse bladder cancer using peptide vaccines and PD-1 blockade. (2019)
  • 著者名/発表者名: 上田翔平、入江 厚、千住 覚、江藤正俊、西村泰治
  • 学会等名: 第23回日本がん免疫学会総会
• [学会発表] Paternally Expressed Gene 10 (PEG10) Promotes Cell Growth, Invasion and Survival of Bladder Cancer. (2019)
  • 著者名/発表者名: Imada K, Akamatsu S, Hayashi T, Matsuyama H, Eto M
  • 学会等名: 第78回日本癌学会学術総会
• [学会発表] Tumor-associated peptides vaccine enhances anti-tumor effect of PD-1 blockade in mouse chemoresistant bladder cancer. (2019)
  • 著者名/発表者名: Ueda S, Irie A, Senju S, Eto M, Nishimura Y
  • 学会等名: 第78回日本癌学会学術総会
• [学会発表] 尿路上皮癌における薬物療法の現状と展望. (2019)
  • 著者名/発表者名: 江藤正俊
  • 学会等名: 第84回日本泌尿器科学会東部総会
• [学会発表] マグネシウム製剤は尿路上皮癌患者においてGC療法後の腎障害を予防する. (2019)
  • 著者名/発表者名: 門司恵介、今田憲二郎、柏木英志、武内在雄、塩田真己、猪口淳一、立神勝則、江藤正俊
  • 学会等名: 第57回日本癌治療学会学術集会
• [学会発表] 難治性尿路上皮癌の診断と治療の現況と展望. (2019)
  • 著者名/発表者名: 江藤正俊
  • 学会等名: 第57回日本癌治療学会学術集会
• [学会発表] アディポネクチンの発現は筋層非浸潤性膀胱癌の予後予測因子となりうる. (2019)
  • 著者名/発表者名: 柏木英志、阿部立郎、木下史生、今田憲二郎、猪口淳一、立神勝則、江藤正俊
  • 学会等名: 第40日本肥満学会・第37回日本肥満症治療学会学術集会
• [学会発表] T1、High grade 膀胱癌における並存 CIS の予後に与える影響. (2019)
  • 著者名/発表者名: 猪口淳一、今田憲二郎、阿部立郎、門司恵介、柏木英志、武内在雄、塩田真己、立神勝則、江藤正俊
  • 学会等名: 第71回西日本泌尿器科学会総会
• [学会発表] Effective combination immunotherapy for chemoresistant mouse bladder cancer using peptide vaccines and PD-1 blockade. (2019)
  • 著者名/発表者名: 上田翔平、入江 厚、千住 覚、江藤正俊、西村泰治
  • 学会等名: 第71回西日本泌尿器科学会総会
• [学会発表] BCG注入療法を施行したT1 high grade膀胱癌症例における上皮内癌併存の有無による予後への影響. (2019)
  • 著者名/発表者名: 今田憲二郎、猪口淳一、阿部立郎、門司恵介、柏木英志、武内在雄、塩田真己、立神勝則、江藤正俊
  • 学会等名: 第12回BCG注入療法研究会
• [学会発表] 人工知能を用いた膀胱内視鏡における膀胱癌診断支援システムの構築. (2019)
  • 著者名/発表者名: 牟田口 淳、楳原愛子、小林 聡、諸岡健一、江藤正俊
  • 学会等名: 第33回日本泌尿器内視鏡学会総会
• [学会発表] Effective combination immunotherapy for chemoresistant mouse bladder cancer using peptide vaccines and PD-1 blockade. (2019)
  • 著者名/発表者名: Ueda S, Irie A Senju S, Eto M Nishimura Y
  • 学会等名: 第48回日本免疫学会学術集会
• [図書] 日本泌尿器科学会編：膀胱癌診療ガイドライン2019年版 (2019)
  • 著者名/発表者名: 膀胱癌診療ガイドライン2019年版作成委員会：松山豪泰、中川昌之、猪口淳一、都築豊徳、藤本清秀、藤井靖久、北村 寛、篠原信雄、江藤正俊、植村天受、西山博之、小川 修、井上啓史、菊地栄次、大山 力、藤元博行、東 治人、羽渕友則、溝脇尚志、鳴海善文、樋之津史郎、髙橋 悟：
  • 総ページ数: 144
  • 出版者: 医学図書出版
• [図書] 日本癌治療学会、日本病理学会編：領域横断的がん取扱い規約第1版 (2019)
  • 著者名/発表者名: 領域横断的癌取扱い規約検討委員会 泌尿器科・病理・放射線科 腎癌取扱い規約／副腎腫瘍取扱い規約／泌尿器科・病理・放射線科 腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約／泌尿器科・病理・放射線科 前立腺癌取扱い規約／精巣腫瘍取扱い規約 担当委員：江藤正俊、猪口淳一、今田憲二郎
  • 総ページ数: 369
  • 出版者: 金原出版