研究課題/領域番号 |
19H04490
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
高橋 尚彦 大分大学, 医学部, 教授 (30263239)
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研究分担者 |
安部 一太郎 大分大学, 医学部, 病院特任助教 (00747595)
手嶋 泰之 大分大学, 医学部, 講師 (10457608)
宮本 伸二 大分大学, 医学部, 教授 (70253797)
福井 暁 大分大学, 医学部, 助教 (70631381)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 心外膜脂肪 / 心房細動 / 線維化 / 炎症 |
研究実績の概要 |
【背景と目的】 代表者らは,病理解剖が行われた9症例の左房周囲のEATおよび腹部の皮下脂肪(SAT)から培養実験に用いるconditioned mediumを作成した。一方,8週齢の雄性ラットから左心房を単離しシャーレ内で1週間,器官培養した。EAT由来のconditioned medium(以下EAT)は,滴下負荷開始から5~7日後に,器官培養したラット左心房の心外膜側から線維化を惹起した。SAT由来のconditioned medium(以下SAT)を負荷した左心房には線維化が認められなかった。次に,組織像とCT画像を対比することで,心房線維化を惹起する,“質”の悪いEATをCT画像で同定できないかを検討した。 【方法】 開胸手術の際に左心耳切片が得られた心房細動患者76症例を対象とした。EATの中央部(Central EAT; C-EAT)と心房筋との接合部(Marginal EAT; M-EAT)の違いを組織学的に検討した。一方,これら76症例で術前に撮像されたCT画像を解析した。 【結果】 1)C-EATに比し,M-EATでは,EATそのものの線維化(Fibrotic remodeling of EAT)が顕著であった。2)EATそのものの線維化は,C-EATとM-EATの脂肪細胞径の比(C/M diameter ratio)と正の相関を示した(r=0.73, p<0.01)。3)%change in EAT fat attenuation(EAT辺縁から中央部に向かうCT値の減衰程度)が,EATそのものの線維化と正相関を示した。【考察】C-EATとM-EATの脂肪細胞径の比(C/M diameter ratio)がEATそのものの線維化(Fibrotic remodeling of EAT)と密接に関与することが示唆された。また,CT画像から得られる%change in EAT fat attenuationによって,Fibrotic remodeling of EATを非侵襲的に検出できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【器官培養(Organo-culture)】 病理解剖が行われた9症例から脂肪組織を得た。左心房周囲のEATおよび腹部皮下脂肪(SAT)を速やかに採取し,conditioned medium(CM)を作成した。8週齢のラットから単離した左心房を器官培養し,CM,recombinant Angptl2を心外膜側から滴下負荷した。心外膜脂肪は3~7日後に心房線維化を惹起し,心房中の炎症線維化に関連する遺伝子発現も増加していた。心房細動既往のある患者のEATは,心房細動既往のない患者のEATよりも心房線維化惹起作用が顕著であった。また,recombinant Angptl2も有意に心外膜側の線維化面積を増加させた。培養した新生仔ラットfibroblastにおいて,Angptl2はα-SMA,TGF-β,MCP-1およびIκBαのリン酸化を増加させた。以上,器官培養によって,ヒト心外膜脂肪が心外膜から心房線維化を惹起する過程を再現することに成功した。心外膜脂肪中のAngptl2がこの過程に関与することが示唆された。 【心房細動治療薬開発に向けて】 5ng/mlのrecombinant Angptl2に抗Angptl2抗体を加えて器官培養を行うと,Angptl2が引き起こす線維化は減弱した(23.9% ± 2.0% vs 34.6% ± 2.3%; P< .05)。EAT conditioned mediumに抗Angptl2抗体を加えて器官培養を行うと,EAT conditioned mediumが引き起こす線維化も減弱した(21.7% ± 2.4% vs 40.6% ± 3.3%; P< .01)。以上の所見から,抗Angptl2抗体を応用することで,新規心房細動治療薬が開発可能であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後,以下の研究を推進していく。 【左右心房における脂肪前駆細胞の分布と心外膜脂肪の差異】 EATが増量する際には,その元となる脂肪前駆細胞の総数が増えていると予想される。そこで,非心房細動患者と心房細動患者で心房組織中の脂肪前駆細胞の数を比較した。当院心臓外科手術(n=19),および病理解剖(n=9)から得られた左心耳・右心耳の組織を検体として使用した。一般的に間葉系幹細胞のマーカーとされているCD105に対する抗体を用い、蛍光免疫染色を行った。我々は左心耳組織から抽出したCD105陽性の線維芽細胞様細胞が脂肪への分化能を有することも予備実験で確認しており,それらの結果を以て,CD105陽性の細胞を脂肪前駆細胞とした。解析の結果,非心房細動患者および心房細動患者のどちらにおいてもCD105陽性細胞(脂肪前駆細胞)は左心房側優位に存在しており,心房細動患者ではその数がさらに増加していた。EATにおける脂肪前駆細胞の増殖を特異的に抑えることが可能となれば、EATの増加・蓄積,ひいては心房細動発症を抑制出来るようになるかも知れないと考えている。 【SGLT2阻害薬が心外膜脂肪におよぼす効果】 今まで当科で得られている脂肪前駆細胞を用いて薬剤(SGLT2阻害薬)負荷実験行い,遺伝子発現やシグナル経路の変化を検討する。SGLT2阻害薬の存在下,非存在下において,脂肪前駆細胞が脂肪細胞へと分化誘導される様子を検討する。
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