生体中を伝搬する超音波(縦波)の音速は組織性状を反映しており、その分布を可視化することができれば、疾病の検出や診断に役立つことが期待されている。現在実用化が試みられている超音波CTには、超音波の伝搬経路中に骨などの不透過な構造があると再構成できない致命的な欠点がある。それ故、臨床で広く用いられているハンドヘルド型プローブを用いて音速分布を可視化する試みがあるが、未だ実用化されていない。そこで本研究では、超音波後方散乱制御に基づいて精細な音速分布を再構成する新たな手法を開発し、実験システムを構築して、実データに対する音速分布再構成法の適用性について検討する。全研究期間を通じて、ファントム(生体模擬材料)や実験動物を用いた実験的検討を行い、高分解能・高コントラストな音速分布のイメージングを可能とするアルゴリズムの確立及びシステムの完成を目指す。 2021年度は、構築した実験システムを用いて、摘出した動物組織(鶏肝臓)を用いたex vivo実験を行い、音速測定アルゴリズムの適用性を検討した。動物組織を寒天内部に固定して超音波の送受信を行い、受信データを用いて当該アルゴリズムの検証を行った。また測定結果の正しさを評価するために、パルス透過法を用いて音速(参照値)を直接測定し、当該アルゴリズムを用いて測定された音速と比較した。その結果、音速の参照値と測定値との誤差は、本研究の目標値である10%以内に収まり、目標達成を確認した。さらに当該アルゴリズムによる音速測定のコントラスト分解能を評価するため、動物組織に温度変化を与えたときの音速変化を測定した。その結果、当該アルゴリズムにより、±1 m/s未満の音速変化を捉えられることが分かった。また前年度のファントム実験と同様、動物組織においても音速がせん断波速度とは異なる性状を反映することが示され、有用な診断指標になり得ることを実証した。
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