睡眠障害や心理ストレスは心血管系疾患や脳疾患発症の主要な危険因子であり,睡眠障害のスクリーニングや心血管系イベントを予防するために呼吸循環系の生理指標のモニタリングの必要性が指摘されている。本研究では,高感度の圧電素子を用いて無拘束に心拍と呼吸を検出し,心拍-呼吸リズム間位相カップリングから睡眠周期や睡眠の質,自律神経活動,さらには複数の心弾道波形から求めた脈波伝搬時間より血圧変化を推定可能なモニタリングシステムを開発することを目的とする。今年度は圧電素子によるベッドサイドにおける呼吸,心拍の検出から呼吸性不整脈(RSA)の位相カップリング指標(λ)を導出し,睡眠時の睡眠周期や睡眠の質が求められるか健常者11名で検討を行った。 ベッド上に体幹をスライスするように圧電素子センサを配置した。センサ信号から抽出した心拍と呼吸信号を用いてRSAのλを求めた。心弾動(BCG)波形にハイパスフィルタを通し,時定数0.1秒で全波整流積分して脈波に類似した波形を得た。この信号の瞬時位相から一拍毎の心拍間隔(BBI)を求めた。呼吸信号はBCG信号に低周波領域のバンドパスフィルタをかけて抽出した。BBIに呼吸周波数のバンドパスフィルタを適用することでRSAを抽出し,RSAのλを算出した。λの自己相関関数(ACF)を求め,その優位的な周期から睡眠周期を推定した。同時に計測した心電図からの心拍間隔とBBIの相関係数は平均でr=0.71であり、バイアスは6.8±5.6 ms、平均二乗誤差は86±26 msであった。脳波のδ波パワーの周期変動とλの周期変動は酷似しており、睡眠周期はδ波が94.9±19.9 minに対しλは 98.9±23.7 minであり、相関係数はr=0.89であった。睡眠時に圧電素子により心拍、呼吸を無拘束で計測可能であり、λは徐波睡眠活動を表す代替指標になりうると推察された。
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