研究課題/領域番号 |
19H05458
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
長崎 幸夫 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90198309)
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研究分担者 |
佐々木 茂貴 長崎国際大学, 薬学部, 教授 (10170672)
吉冨 徹 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主任研究員 (20585799)
丸山 達生 神戸大学, 工学研究科, 教授 (30346811)
案浦 健 国立感染症研究所, 寄生動物部, 室長 (90407239)
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研究期間 (年度) |
2019-04-23 – 2024-03-31
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キーワード | シトリン欠損症 / アミノ酸 / 自己組織化薬 |
研究実績の概要 |
従来のビタミンや様々な抗酸化剤は低分子ゆえに正常細胞内のレドックス反応を破壊する重大な欠点があった。我々は自己組織能を持つ高分子に抗酸化剤を共有結合すると、正常細胞への取り込みが抑制されるために副作用を低減させ、炎症部位に集積して活性酸素種(ROS)を効果的に消去することを見出した。この成果は、低分子単独の薬理活性物質を自己組織化させることによって、低分子単独では得られない生体機能や治療効果を実現できる可能性を示すものである。これまでの有機合成による低分子医薬品の開発や、鍵と鍵穴を作用機序とする酵素や受容体をターゲットとするバイオ医薬品などに限界が見えるつつある中、本研究では「分子の組織体」を用いて、これまで困難とされてきた薬理活性を発現させるところにあり、この「分子の組織体による薬理活性」をこれまでにない作用機序に基づく新たな創薬概念として提唱した。目的を達成するために本研究では、wet系実験研究ならではの発見を大切にし、「多数分子が組織的・協同的に働く 」という概念を創薬分野に導入・確立することが本研究の最大の特徴である。これまでに抗酸化型、アミノ酸型、短鎖脂肪酸型自己組織化薬を設計し、がんやうつ病、肝障害、膵臓障害など様々な動物モデルを作製し、その効果の実証をしてきた。また、隣接基効果による新薬合成では隣接基効果により初めて選択的に機能する分子を設計し、細胞実験で実証を進めている。また、生体内環境でゲル化する分子設計では腫瘍環境から細胞内への展開を進め、動物実験にも成功しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、前年度までに効果のあったモデルに対してそれら自己組織化粒子の体内分布等の薬物動態試験を行うとともに、新たな材料の設計と治療評価に関して以下のように検討した。 経口投与において血中に移行しない抗酸化ナノ粒子(RNP)をマウスに経口投与後、28m/分にて高強度走行させると、低分子抗酸化剤では投与量依存的に走行時間が短縮するのに対し、RNPでは40から50%近く延長した。腸内炎症を低減するとともに、血中のリポ多糖(LPS)の血中濃度が抑制され、腸内炎症により、腸壁の透過性を上昇させるリーキーガットを効果的に抑制していることを確認した。このように血中への毒素の漏れ出しを抑制することで、全身の筋肉量の低下を抑制し、運動能力を向上させるメカニズムを確認した。また、RNPを幹細胞培養液に添加することで、培養細胞の生存率や未分化能の向上を確認し、脳梗塞モデルに対する移植で高い効果を示した。 短鎖脂肪酸自己組織化ナノ粒子では、酪酸型のナノ粒子を潰瘍性大腸炎モデルマウスに経口投与する事で、その炎症を著しく抑制した。腸内の制御性T細胞の増加が認められ、放出した酪酸が抗炎症効果を発揮することを確認した。 アミノ酸型ナノ粒子では特にアラニン及びグルタミン酸型自己組織化ナノ粒子を設計した。アラニンはそのモノマーとしての環状無水物の反応性が著しく高く、合成後、精製中に重合してしまうため、合成とブロック重合をワンポットで進める方法を開発した。合成したPEG-b-ポリ(アラニン)およびPEG-b-ポリ(アスパラギン酸エステル)のナノ粒子化、安定性、細胞毒性を評価し、シトリン欠損症モデルノックアウトマウスで効果を確認したところ、血中アンモニア濃度の低下は確認できなかったものの、肝臓、腎臓障害マーカーの低減等の効果を確認し、さらに最適化を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
得られた効果に対するメカニズムの解明とともに、最適化、毒性等の評価を行う。また、新しい疾患モデルの作製、それに対応する自己組織化薬の設計と評価を進めていく。
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