研究課題/領域番号 |
19H05461
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
藤田 誠 分子科学研究所, 特別研究部門, 卓越教授 (90209065)
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研究分担者 |
藤田 大士 京都大学, 高等研究院, 准教授 (20713564)
矢木 真穂 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 助教 (40608999)
佐藤 宗太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任教授 (40401129)
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研究期間 (年度) |
2019-04-23 – 2024-03-31
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キーワード | タンパク質包接 / 自己集合 / 構造解析 / NMR / X線構造解析 / ケージ化合物 / タンパク質 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
分子を限られた空間に捕捉すると、溶液や固体状態では見られない新しい性質や反応性が発現し、さらに新たな観測手段でその構造を解析することができる。本研究では、この知見をタンパク質分子に応用する。すなわち、人工的なケージにタンパクを空間捕捉し、(1)タンパクの性質を制御する。(2)タンパクの反応性を制御する。さらには、(3)タンパクの新しい構造解析手法を創出することを目的とする。 当初の計画通り、タンパク質の性質・機能制御、さらにはタンパク質の高効率構造解析法の創出に適したタンパク質包接技術の開発とその基礎的データの収集を行った。その結果、(1)再現性の高い調製プロトコルの確立、(2)想像を超えるタンパク質安定化、リフォールディングによる特異な機能制御を達成した。また、(3)包接したタンパク質の構造の解析を行った。 1.タンパク包接の新技術開発: タンパク質を球状錯体へ包接する新たな手法を開発し、多様な天然タンパク質を包接することに成功した。従来法で必須であったタンパク質の改変が不要となり、また精製不要なワンポットでの包接により、天然構造を保持したままタンパク質を球状錯体ケージへ包接可能となった。 2. 包接によるタンパク質の機能制御: タンパク質を包接することで、その性質・機能を制御できることを見出した。包接したタンパク質の安定性を評価すると、熱および有機溶媒に対する安定性が飛躍的に向上することがわかった。 3.包接したタンパク質の構造解析: 包接したタンパク質のNMR構造解析を行った。従来の包接手法と異なり、本研究では球状錯体の一義的な内部空間にタンパク質を包接できるため、その構造を詳細な解析が可能となった。タンパク質を錯体ケージへと包接し、三次元NMRでピークの帰属を行い詳細な解析を行った。得られた構造から、タンパク質が天然構造を保持したまま包接されたことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍に伴う障害により当初の計画通り進まなかった点がある一方で、研究では想定を超える発見があった。そのため、「一部の遅れ」とともに「想定以上の進展」あり、全体を俯瞰すると「順調な進展」と言える。 想定を超える進展としては、予想していたよりも錯体ケージへの包接により多様な効果が観測された点が挙げられる。タンパク質のケージ内への包接により、当初期待していた「活性の維持」を超え、想定していなかった「空間捕捉効果」が見られた。例えば、CLEタンパク質(エステル加水分解酵素)は有機溶媒や熱に対する耐性が著しく向上した。それにとどまらず、有機溶媒中で一度変性し、失活したCLE酵素も、水系溶媒に戻すことで安定フォールディング構造と酵素活性を取り戻すリフォールディングが錯体ケージ内で生じた。これは、シャペロンタンパク質と同じ働きを錯体ケージが果たしたことを示唆する驚くべき結果であった。 一部の遅れは、以下の点が挙げられる。プロジェクトへの参加を予定していた外国人ポスドク、外国人学生の入国が実現しなかったこと、健康不安から長期休業する研究員や学生がいたことから、計画していた量の検討を行うことができなかった。また、錯体分子と生体分子の両者を共に扱う必要のある本研究は、技術的に予想以上に習得が困難であった。そのため、熟練した上級研究者でなければこの研究の遂行が困難であることが判明した。新規参入の学生はプロジェクトに馴れ、ノウハウを獲得するまでに1年間程度のトレーニング期間を有する。今年度から加わったメンバーも多く、従来のメンバーにより研究を進めつつ体制作りをさらに進める必要があった。
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今後の研究の推進方策 |
当初掲げた、巨大中空錯体への包接によってタンパク質の(1)性質・(2)反応性を制御することに一定の成果が得られた。今後は、(1)(2)の探究を続けると共に、(3)タンパク質の構造解析手法の創出を目指す。具体的には、以下の項目を主として包接による空間捕捉効果を活用したタンパク質構造の高効率解析手法を開発する。 1. 非生体環境でのNMR測定: これまでに見出した包接による安定化効果を活用して、非生体環境でNMR構造解析を行いタンパク質の新規構造情報を取得する。特に0度以下の極低温測定を行い、通常条件では速くて捉えられないタンパク質のダイナミクスを詳細に解析することを目指す。 2. 画一条件測定によるX線構造解析、クライオ電子顕微鏡(EM)構造解析の高効率化: X線結晶構造解析、クライオEM構造解析において、包接による空間捕捉効果によって画一的な条件でのサンプル調製を可能とし、タンパク質構造解析の高効率化を目指す。錯体ケージに覆うことで、結晶内におけるタンパク質分子同士の接触(結晶パッキング)や、クライオEMグリッド上におけるタンパク質の配向は球状錯体によって規定されることが期待される。 3. 不安定な凝集性タンパク質の構造解析: 錯体ケージへの包接により、通常は観察不可能な過渡的で不安定なタンパクの構造情報を取得する。具体的にはアルツハイマー病の原因とされるアミロイドβの凝集過程の構造解析を行う。特に、毒性が高いとされる過渡的なオリゴマー構造を調べる。 4. 弱いタンパク質-リガンド相互作用の解析: タンパク質とそれに結合する分子(リガンド)の相互作用のうち、通常では観測困難な弱い相互作用に関する構造情報を取得する。リガンドをタンパクと共に錯体ケージへ包接して空間的に閉じ込めることで、弱い相互作用を強制的に増強させ、従来は観測できなかった複合体の構造を解明する。
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