研究課題
プラズマ照射した乳酸リンゲル(プラズマ活性乳酸リンゲル:PAL)が抗腫瘍効果や植物の成長などの超バイオ現象を引き起こす機構を解明するために、以下に取組み、その核心に迫る成果を得た。1)プラズマ活性酢酸リンゲル液(PAA)は、抗腫瘍効果を示すことが分かった。PAAについてNMRを用いて成分解析を行った結果、プラズマ活性乳酸リンゲル液(PAL)と共通の未同定のピークが存在することも発見した。すなわち、抗腫瘍効果を示す異なる構造のプラズマ活性リンゲル液の成分を同定し、それらの共通因子を解明することで、抗腫瘍効果に作用している生体活性物質の手がかりを得た。2)装置メーカーと共同で、気相・液相計測が可能な臨床応用向けのプラズマ活性溶液作製装置を設置した。この装置によって、プラズマを生成するガスの組成(Ar、O_2、N_2)を精密に制御でき、高信頼性のプラズマ活性溶液を合成することが可能になった。3)分担研究者の豊國らは、新規装置を用いることで、PALを投与した悪性中皮腫細胞がフェロトーシスとよばれる2価鉄に依存した特異的なネクローシスを起こすことを発見し、本成果をまとめた論文がRedox Biology(IF=~10)に受理された。4)分担研究者の梶山らは、卵巣癌腹膜播種のPAM/PALを用いたウォッシングセラピーを提案し、卵巣癌の腹膜播種モデルマウス実験において、PAM投与した腹腔内の組織染色からがん関連マクロファージの浸潤を誘導することを発見し、本成果をまとめた論文が Cancersに公表された。5)イネの種にプラズマの直接照射およびPALを施し、イネの成長促進のみならすその収穫量が向上することを見出し、Plasma Processes and Polymerに公表した。これらの成果によって、生体活性物質が植物の成長に機序する分子機構を解明するための、基盤を構築することができた。
1: 当初の計画以上に進展している
プラズマ活性乳酸リンゲル(PAL)が生体に作用する機序の解明において、1)PALが悪性中皮腫細胞にフェロトーシスをもたらす細胞内分子機構を解明した。これによって、悪性中皮種に関しては、本計画の中核の一つであるPALによる作用機序の解明を達成するこができた。この論文が、インパクトファクターが10近くの雑誌であるRedox Biologyに受理されるに至った。2)また、PALの卵巣がんに対する効果において、動物実験にて検証でき、新しい医療としてウォッシングセラピーを提案した成果は、ハイインパクトファクター雑誌であるCancersに公表された。すなわち、学術および医療への展開の両面において、予定していた計画以上に進展した成果が得られた。これらの成果の背景には、プラズマ活性溶液による細胞内分子機構をメタボローム解析などの網羅的な解析を通じて、様々な専門的な視点からプラズマ活性溶液の性質を徹底的に究明したことにより、新しい機構の発見が、当初計画した以上に早く発見されたことによると考えている。また、申請書当初に予定していた通り、初年度にLC-MS/MS、2年目に企業との共同研究による気相・液相計測用臨床応用向けプラズマ活性溶液作製装置等、大型装置の設置も完了し、プラズマ誘起活性物質の本質を突き止める研究が順調に進められている。以上の状況を鑑みて、現在までの進捗状況を当初の計画以上に進展していると自己評価した。
本特別推進研究の予算で初年度に設置したLC-MS/MSの装置を用いたプラズマ活性溶液の測定が軌道に乗ったため、プラズマ活性乳酸リンゲル液やプラズマ活性酢酸リンゲル液中の様々な成分解析が進んでいる。また、分担研究者伊藤らと研究を進めている、ラジカル処理したトリプトファンが、大腸菌の強い滅菌効果を示す機序を解明するための化学成分解析も順調に進んでいる。また、分担研究者片岡らとの研究において、プラズマ照射による脳神経細胞への効果についても、分子機構の解明が進んでいる。PALが与えるイネの成長促進において、種子への照射による根の成長に関する再現性の高い成果が得らえており、今後の植物ホルモンの挙動の解析によって、機序解明が実現できる目途がついている。今後、主要なプラズマ誘起活性物質の成分の同定とその生理学的機能が次々と明らかになると期待される。また、今年度本特別推進研究の予算で行ったRNA-seqなどの各種網羅的な遺伝子発現解析やプロテオーム解析などの結果について、フォローアップ実験を進めることにより、プラズマ誘起活性物質が誘導する新たなシグナル伝達経路の発見などを目指し、細胞内分子機構の解明を進める。更に、プラズマ誘起活性物質による免疫系の活性化や植物における種子プラズマ照射による成長促進や機能性成分の増強などの時空間遠隔作用について機構解明を進めることにより、プラズマ誘起活性物質により引き起こされる効果の統一的な機構解明を目指す。更には、今年度、装置メーカーと共同で設置した臨床応用向けのプラズマ活性溶液作製装置の気相・液相解析を進め、特定臨床研究やPMDAに対するRS戦略相談に必要な規格を決定する。
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すべて 雑誌論文 (33件) (うち国際共著 2件、 査読あり 33件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (83件) (うち国際学会 25件、 招待講演 22件) 図書 (1件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件) 学会・シンポジウム開催 (4件)
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