研究課題/領域番号 |
19H05466
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩見 美喜子 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (20322745)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-23 – 2024-03-31
|
キーワード | piRNA / トランスポゾン / PIWI / RNAサイレンシング / 生殖 |
研究実績の概要 |
本年度も5つの項目、[RP-1] 生殖系体細胞におけるpiRNA生合成機構の解明、[RP-2] 生殖細胞におけるpiRNA生合成機構の解明、[RP-3] 生殖系体細胞のpiRNAによる転写制御機構の解明、[RP-4] piRNA因子の立体構造解析、[RP-5] マウス胎児期生殖細胞におけるクロマチン動態の解析、を主項目とした。概要を以下に示す。[RP-1]主にミトコンドリア局在因子Minoに焦点を当てて解析を進めた。MinoはPiwiと結合しphased piRNA生成の足場となるという考察を得た。[RP-2] RNAヘリケースDDX43がSiwi-piRISC生成を促す因子であることを見出し、論文としてまとめ報告した(Murakami et al. 2021)。また、二次Siwi-piRISCの成熟化が液層凝集体(nuageの一種)で起こることを見出しAgo3 bodyと名付けた。Ago3 bodyの形成にはAgo3-piRISCとVretの両者が必要であることも明らかにした。本成果は論文としてまとめ報告した(Nishida et al. 2020)。[RP-3] OSC細胞でPiwiの制御を受ける大半のトランスポゾンはBrm依存的に転写が開始すること、また、Piwi補因子MaelがBrmに働きかけ、標的DNAからBrmとRNA Pol IIの量を減少させることによることが明らかとなった。本成果は論文として報告した(Onishi et al. 2020)。[RP-4]ショウジョウバエPiwi-piRISCをOSCから単離精製し、その立体構造を世界で初めて明らかにした。これに関しても論文としてまとめ報告した(Yamaguchi et al. 2020)。[RP-5]マウスPIWIメンバーMiwi2に結合すると思われる新規補因子が得られたため解析を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画に沿って研究計画を実行し、令和2年度は学術論文として6報を発表した。そのうち4報に関しては「6. 研究実績の概要」に示した通りである。そのほかの2報は共同研究として遂行した。当初の計画以上に進展している理由としては、がん抑制因子L(3)mbtの新規補因子を同定したことが挙げられる。我々は、本研究課題採択以前に、生殖細胞特異的に起こるpiRNA増幅機構の因子は、がん抑制因子L(3)mbtによって一括して制御されていることを見出した(Sumiyoshi et al. 2016)。本研究課題採択後は、その作用機序を理解することを目的として研究を進めたが、その過程においてL(3)mbtに特異的に結合する核局在型補因子を同定することに成功した。この新規因子の活性が無い条件下では、L(3)mbt活性が無い条件下と同様にpiRNA増幅機構に関わる因子が脱抑制されることを見出した。また、この新規因子(Lint-Oと命名)の遺伝学的解析を進めたところ、ショウジョウバエ脳においてL(3)mbtの場合と同様に、piRNA増幅因子の発現上昇が観察された(未発表)。一方、今のところL(3)mbt変異体とは異なり、Lint-O変異体において脳腫瘍化は見出されていない。OSCではL(3)mbtとLint-Oは協同してpiRNA増幅因子を制御するが、脳-つまり生殖組織外-のがん抑制という点に関しては、その協同の度合いが異なるのかもしれない。本研究を進めることによってL(3)mbt/Lint-Oがどの様な仕組みで異種組織において異なる標的遺伝子を制御するのかを理解することができると考える。また、がん研究にも寄与する可能性がある。ちなみにL(3)mbt欠損細胞は染色体の倍加を引き起こす。
|
今後の研究の推進方策 |
[RP-1] Gaszは、これまでの我々の解析からGaszはArmiに結合することによってpiRNA成熟化反応の足場として機能することが判明したが、これにDaedがどのように関わるかを理解する。ショウジョウバエ以外の生物はDaedホモログを持たない。つまり、Gaszが単体で機能するのであるが、その生物学的意義を探る。[RP-2] Qin欠損によって脱抑制されるトランスポゾンはウイルス様の顆粒を形成するが、この顆粒に含まれる分子を同定する。これまでの研究からL(3)mbtに特異的に結合する核局在因子を同定することに成功した。この新規因子が欠失した条件下では、L(3)mbtの欠失条件下と同様にpiRNA増幅因子が脱抑制されることも見出した。L(3)mbtとこの新規L(3)mbt結合因子を含む複合体を単離精製し、それに含まれるその他の因子を同定するとともにその機能解析を進める。新規因子の遺伝学的解析も進める。[RP-3] Gtsf1の解析をさらに進める。ショウジョウバエはGtsf1ホモログを4つ発現するが、これら各々のホモログは特定のPiwiホモログと共に機能する可能性がある。これを検証すると共に、そのような結果が得られた場合には、その機能的意義を理解する。[RP-4] 数多くあるpiRNA因子の中からまずはSoYb/Vret複合体の解析を進める。OSCから免疫沈降によって回収すると共に、並行してリコンビナントタンパク質の精製も試みる。また、piRNAに結合していないPIWIメンバーの構造は未だ未解明であるため、それを進める。[RP-5] Miwi2結合型新規候補因子が得られたため、その機能解析を進める。今後はこれらを主テーマとして研究を推進する。
|