研究課題
上皮バリアは、タイトジャンクション(TJ)による上皮細胞間バリアと上皮細胞アピカル膜のアピカル面バリアで構成され、上皮細胞シートを横断する物質移動を制限し選択的透過を制御することにより、内部環境を外部からの摂動に対応させ、種々の生体機能を構築する。本研究は、まず第一に、多様な細胞間バリアについてその特性を解明し、一方で、その分子構築について、クライオ電子顕微鏡による分子構造解析により生体内実態に即して解明することを最終目標とする。当該年度に、目的に適した細胞系を開発した。また、上皮バリアにおいて、アピカル面バリアが「TJ-アピカル複合体」によりTJの細胞間バリアと連携して、時々刻々変化する生体機能を構築・制御する機構を解明することを第二の目標としており、当該年度にTJとアピカル骨格の連動に重要な複数の新規因子について所見を得ることができた。これらの方向性にそった2つのブレークスルーを軸に、生体状況に適応してその特性を変化させる上皮バリアの新しい生体機能統合原理を解明し、上皮バリア学の新展開および操作法の開拓を最終的に目指すための重要な課題について、当該年度に実質的なデーターを得て検討を進めることができた。当該年度に取り組んだ具体的な課題は以下のようである。1) 新しく樹立した細胞系において、TJ細胞間バリアを構築する27種類のサブタイプのクローディン(Cldn)分子の発現を任意に制御することが可能になった。それらが各々単独、複数で重合してTJを構築した際の細胞間バリアの特性について、解析を進める準備ができた。同時に、通常の電子顕微鏡による観察・解析をすすめ、クライオ電子顕微鏡での分子構造解析に適した試料作製方法の検討を進めた。2)「TJ-アピカル複合体」を介して、TJがアピカル面バリアと機能連携するために重要な微小管結合タンパク質を複数同定して、その機能解析を進めた。
2: おおむね順調に進展している
本研究での上皮バリア研究は、TJの細胞間バリアの生体内実態の解明と「TJ-アピカル複合体」による生体機能の構築・制御原理解明の2課題を目標としており、各々で進捗があった。TJの細胞間バリアの生体内実態の解明について、当初計画した肝臓毛細胆管画分を用いた解析は、肝臓という複雑に組織構築が入り組んだ臓器からのTJ単離画分の純度を高めることが予想以上に困難であることが判明したため、新たに培養上皮細胞系での実験について計画した。この計画は予想以上に進展し、目的に最適な複数系統の細胞系の確立に成功した。今後、それら培養細胞系での細胞間バリア特性を解析する準備が整った。同時にクライオ電子顕微鏡への応用の準備は、着実に進行しており、今後の展開が期待される。アピカル面バリアの構築に重要な「TJ-アピカル複合体」の解析についても、TJとアピカル骨格の連携に重要な複数の因子の解析を行い、重要な結果を得た。細胞レベルでは、(1)LUZP1が、新規微小管結合蛋白質(TJMAPs) のひとつ、TJMAP4として、上皮形態形成に重要なapical constrictionに、また、(2)TJMAP2として同定した因子が、細胞間バリアの維持に、重要な役割を果たすことを示した。組織・個体レベルでは、平面内細胞極性 (PCP) 関連因子であるDapleが、微小管の束化因子であることを新規同定して、PCPに沿ったアピカル骨格の配向原理を解明し、気管や内耳において、各々、多繊毛同調運動や有毛細胞聴覚機能を制御することを明らかにした。研究室の状況としては、コロナ禍の影響で、1部の実験計画、研究員雇用が、次年度への繰越しとなるなど、不測の事態もあったが、研究の進展では、上記のように今後の進展も大いに期待できるため、「当初の計画通り概ね順調に進展している」と判断する。
本研究での上皮バリア研究は、(1)TJの細胞間バリアの生体内実態の解明と、(2)「TJ-アピカル複合体」によるTJとアピカル面バリアの連携による生体機能構築原理の解明、の2課題を軸として、今後、これまでの成果をさらに発展させる。(1)当該年度に開発した新規培養細胞系を用いて、今後、細胞間バリアを構築する27種類のクローディン(Cldn)の発現を任意に制御して、生体内で多様なTJ細胞間バリアの特性を解析する。Cldn各々が単独、あるいは、複数で重合したTJによる細胞間バリアの特性の解析を進める。同時に、それらのTJについて、通常の電子顕微鏡での高分解能の構造解析に加え、クライオ電子顕微鏡での解析により、細胞間バリアの培養細胞における生体内実態の解析を推進する。多様な特性を示すTJ細胞間バリアの分子構築を比較検討して、個体生体部位により異なる機能をもつ細胞間バリアの構築機能相関原理を明らかにする。一方で、個体レベル生体部位による上皮細胞間バリア機能の多様性の解明やその操作法の開拓について検討を進める。(2) 「TJ-アピカル複合体」を分子・細胞・個体レベルで階層縦断的に解析し、細胞間バリアがアピカル面バリアと連携した上皮バリアによる生体機能の構築原理を統合的に解明する。申請者らが同定してきた機能未知のTJMAPsについて、当該年度に解析を進めたが、その解析をさらに進める。さらに、PCPとの関連でも「TJ-アピカル複合体」の解析を進め、気管において、その組織機能である粘液繊毛輸送での複合体の役割の検討をさらに進める。本年度に作製を進めたTJ および「TJ-アピカル複合体」関連タンパク質の遺伝子改変マウスの作製・解析を推進する。
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