研究課題/領域番号 |
19H05594
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
皆川 泰代 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 教授 (90521732)
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研究分担者 |
山本 淳一 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (60202389)
青木 義満 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00318792)
檀 一平太 中央大学, 理工学部, 教授 (20399380)
太田 真理子 東京学芸大学, 国際教育センター, 研究員 (50599412)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 言語獲得 / 脳機能結合 / 運動機能 / fNIRS / 乳幼児 / リスク児 / 自閉スペクトラム症 |
研究実績の概要 |
本研究は自閉スペクトラム症を主とする発達障害のリスクを持つ乳児(リスク児)と定型発達児を対象として,月齢3ヶ月時期から3,4歳までの脳機能,知覚・認知機能,運動機能を縦断計測するコホート研究である。特に言語コミュニケーションに障害を持つリスク児と定型児の発達過程を比較することで次の2点を明らかにすることを目的とする。(1)発達初期の脳機能結合を含めた脳機能発達,そして知覚,認知,身体運動機能の各発達特性と言語コミュニケーション獲得との関係性の解明。これによりヒト言語機能の脳内基盤やその成立を可能にする認知的要因を明らかにする。(2)本研究の縦断実験で得た脳機能,知覚,認知,運動データから,後の発達障害を予期する因子を抽出する。 以上の目的のために,本研究は定型発達児,ASD診断のついた兄や姉を持つリスク児乳児,35週未満で生まれた早産児を対象として,新生児時期,3,6,9,12,18,24ヶ月時,3,4歳時の縦断研究を行っている。以前より小規模な乳児コホートによる類似の縦断研究を行ってきたので2019年もその乳幼児,保護者を対象とし,行動実験,脳機能実験を実施してきた。さらに2019年にも新生児,3ヶ月児の新しい縦断研究参加児を加え,データ取得を行ってきた。縦断研究には脳機能実験(fNIRS),行動実験(アイカメラ, 母子相互作用の行動コーディング,共同注意,運動観察),発達検査などが含まれるが,これらのデータはこれまでのデータともあわせて横断的,縦断的解析が可能になった際は適宜,解析を行ってきており,顔の注視特徴の発達,新生児時期の安静状態脳機能結合など様々な解析をすませ,成果は国際会議や招待講演などでも報告してきた。論文化も同時に進めてきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はこれまで行ってきた縦断研究を引継ぎ,拡張するものであるため,2019年6月末に採択された後も,乳幼児コホートの縦断研究を2019年度にも継続して行ってきた。これまでの研究に加えて,本研究ではコホートの規模をより大きくすることが可能になり,fNIRSや運動計測についてより詳細に検討できる新しい解析方法を大規模データに適用することが可能になった。そこで2019年度には,そのための研究員や補助員の雇用と解析のPCやfNIRS装置を始め設備の環境を整えることに取り組んだ。そして縦断研究に新しい研究項目を組み込むために,予備実験や実験刺激の検討なども行ってきた。2019年度はこれまでの研究結果について国内外で招待講演を行う機会を多く得られ,特に海外機関や国際会議では基調講演を含め5件の招待講演で成果を報告できた。 2019年度に追加した縦断データを加え,部分的な実験についてデータが充分に取得され横断的,縦断的解析が可能になり,学会等で報告できた。以下にその1例として「発話者の顔部位注視の発達的変化」について報告する。6ヶ月時から24ヶ月時までの5点の縦断データが定型,リスク児群で各月齢,各群で17―24名,合計のべ約200名のデータとなった。これまでにも18ヶ月齢までのデータを報告したが,24ヶ月児も充分に収集し再解析をすると,これまでとやや異なる結果となった。口の動く発話者の動画を見る際に,定型児は9ヶ月になって初めて口への注視時間が目よりも長くなり,その後緩やかな口への選好が24ヶ月まで続く。一方でリスク児は口への選好が見られるのが12ヶ月と遅いがその選好の増加は24ヶ月まで続いた。これら注視傾向の違いは,各群の乳幼児が口の動きを社会的信号,物理的信号の顕著性の要因にどのように影響を受けるかが異なると考えられ,この要因が言語獲得にも影響を与えることが考察された。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,2019年度末から猛威をふるい始めた新型コロナウィルスの影響が考えられる。縦断研究を主とする本研究は0歳児においては3ヶ月おきにその発達を追っているために,実験実施が出来ない場合にはかなり多くのデータ欠損が起こることが危惧される。一定期間そのような縦断研究が行えないと考えられるので,その期間には,これまで得たデータのデータの解析,具体的にはstill face paradigmのビデオデータの再解析,fNIRSデータの解析などを行い,アイカメラの表情刺激のデータ解析を行う予定である。これらのデータを,様々な質問紙データ,発達検査のデータと併せて,共分散構造分析などの多変量解析を試してみる予定である。 2020年度の新しい試みとして,縦断コホート参加児に発達の問題が見られた際に,発達支援研究による介入を実施するシステム作りを行う。これは本研究の第3の目的とも言えるもので,基礎研究と臨床研究を融合した研究形態を構築する試みである。このために,新しく応用行動分析による介入の実績のある研究員を迎え,現在のコホート参加児,卒業児を対象に療育希望の有無や発達の様子を聞き取り,条件があった場合にコミュニケーション発達の療育を行う。ただし,この研究も新型コロナウィルスの影響を受けるために,遠隔による支援方法などを選択肢に入れる必要が考えられる。 コロナ禍で研究の中断が起こったとしても,感染状況が改善された際には速やかに実験が実施できるように,感染対策をした上での実験実施方法についてあらかじめ準備を行う。同時に感染状況の収束が遅い場合には,遠隔実験で行える実験項目についてはオンラインシステムを通じたデータ収集で対応できるようにする予定である。
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