研究課題/領域番号 |
19H05596
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
日野 亮太 東北大学, 理学研究科, 教授 (00241521)
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研究分担者 |
内田 直希 東北大学, 理学研究科, 准教授 (80374908)
中田 令子 東北大学, 理学研究科, 助教 (00552499)
篠原 雅尚 東京大学, 地震研究所, 教授 (90242172)
伊藤 喜宏 京都大学, 防災研究所, 准教授 (30435581)
飯沼 卓史 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(地震津波予測研究開発センター), グループリーダー (10436074)
金松 敏也 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門, 専門部長 (90344283)
池原 研 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 招聘研究員 (40356423)
中村 恭之 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(地震発生帯研究センター), グループリーダー代理 (60345056)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 海溝型巨大地震 / スロースリップ / 津波地震 / 海底地震・地殻変動観測 / 深海底古地震学 |
研究実績の概要 |
日本海溝沿いのプレート境界浅部で発生する各種の「ゆっくり地震」の活動実態を把握するために,S-netを含む定常観測網データの地震波形データベースを対象として,機械学習を活用した効率的な波形処理方法の検討を進めた一方で,S-netを補完する海底地震計群列観測の構築を完了した.また,過去に日本海溝全域で実施した群列観測の解析によりプレート境界浅部における低周波微動活動を検出した.海溝軸における海底間音響測距を継続したほか,無人機であるWave Gliderを用いたGNSS-音響測距結合方式(GNSS-A)観測を6月と10月の2回実施し,高頻度海底地殻変動観測を開始した. 日本海溝北部で過去に発生した中規模浅部すべりイベントの発生履歴を明らかにするため,深海底堆積層試料から地震イベント層の検出とその堆積年代の決定に残留磁気データの解析を適用し,17世紀以降に堆積した2~3層の地震性と考えられる堆積層を見出すことができた.また,日本海溝陸側斜面上の小海盆からえられた堆積物試料から,津波地震の典型例である1896年三陸沖津波地震の地質学的痕跡を,放射性セシウムと過剰鉛の測定により検出することに成功した. 浅部すべりが海溝に沿って拡大するのを制約する要因を,海溝軸近傍の地質構造の空間変化から考察するために,2011年東北沖地震の震源域北端でこれまでに得られた構造探査データの系統的な解析を進めた.三陸沖北部でスロースリップと津波地震が共存する地震発生サイクルシミュレーションを進めるとともに,日本海溝全域でのシミュレーションモデル構築のために,中部から南部を対象として実際の地下構造の不均質をもとに,東北沖地震破壊域とその南側での地震発生サイクルを再現できるモデルを完成させた.また,地震波速度の異方性解析をもとに前弧域でのレオロジー構造を解明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地震波形データ処理の効率化のため陸上の地震観測網とS-netで得られたデータに対して機械学習をもちいて自動的に地震イベントを抽出する手法の開発を進めているが,海陸では別々の学習モデルを適用する必要があるなど,の知見が蓄積しつつある.2019年度に準備した海底地震計を日本海溝北部に設置し,日本海溝北部における海底地震計群列観測を10月から開始した.新型コロナウイルスの感染拡大の影響により当初予定より6か月遅れたが,これにより,計画していた日本海溝北部の海底地震・地殻変動観測網が完成した.2019年度に技術実証できた無人機によるGNSS-A観測を,本格的な運用体制に移行し,6月と10月の2回の観測に成功し,良好な観測データをえることができた. 日本海溝の海底で採集された堆積物コア試料について,地磁気永年変化を反映した偏角・伏角のほか磁性鉱物の粒度や量といった物性の鉛直プロファイルの測定を行うことにより,2011年の1つ前の東北沖地震クラスの巨大地震が発生した1700年頃より後に,日本海溝北部では2~3層の地震性の堆積層が同定され,一回り小さいイベントの繰り返し発生を示すものである可能性が高い.三陸沖日本海溝底と斜面域平坦面のコアの分析から1896年三陸沖津波地震に相当する堆積層を検出することに成功した. 2011年の東北沖地震で浅部すべりによる断層変位量が大きくなかった領域で得られた地下構造探査データの再解析が進み,すべり量の大小に相関する可能性がある構造上の特徴が明らかとなってきた.浅部すべりの発生過程の数値モデル構築においては,スロースリップと津波地震とが共存する地震サイクルを再現するモデルの構築が進んだ.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度には新型コロナウイルスの感染拡大により調査観測航海の延期・中止が相次いだが,民間の作業船を傭船することにより,代替の航海日数を確保することで,当初予定から半年程度遅れたものの,海底地震観測網の構築が実現できた.2021年度以降については,当初計画に従って.海底地震・地殻変動観測を進める. 深海底堆積物の分析については,過去に得られた堆積物コア試料の解析から津波地震の発生履歴の解明が進捗していることから,継続して過去に得られたデータ解析・試料分析を重点的に進める.検出されたイベント堆積層の中には,浅部すべりではなく,プレート境界深部に震源をもつ通常の大地震に伴うものが混在している可能性があるため,浅部すべりの痕跡と深部すべりの痕跡を分離する方法の検討をすすめる. 反射法地震探査データの解析では,データ処理に最新技術を適用して再解析することで,2011年東北沖地震時の大すべり域の終端部でのプレート境界およびその下に沈み込む堆積層内の詳細な構造の可視化をすすめる.「ゆっくり地震」や「津波地震」の発生域と,日本海溝陸側にみられるmid slope terraceと呼ばれる特徴的な地形の存在範囲に対応関係がみられることから,この領域での地質構造の解明に重点をおく. 地震発生サイクルの数値モデル化では,2020年度に続いて「ゆっくり地震」と「津波地震」が共存するサイクルの再現モデルの構築をすすめるとともに,完成した日本海溝中~南部での地震サイクルモデルとの統合に向け,中部域での超巨大地震の断層すべりが北部に拡大しないメカニズムの検討をすすめる.
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