研究課題
[対称性の制御による非相反輸送現象や異常光起電力効果] 3回回転対称性を有する2次元物質・単層WSe2と2回回転対称性を有する2次元物質・黒リン(BP)の積層により、ファンデルワールス(VdW)ヘテロ接合を作製することによって、面内に平行に流れるバルク光起電力が発生することを発見した。この界面の構成要素物質であるWSe2とBPはともに非極性であるにも関わらず、これらの物質のVdWヘテロ界面には面内分極が発生し、その結果、バルク光起電力が面内方向に発生していることを明らかにした。この結果は、VdWヘテロ接合が対称性の制御、さらには機能性の発現に非常に強力な役割をすることを示しており、今後の発展が期待される。一方、空間反転対称性のない伝導体については、SrTiO3の電界誘起2次元超伝導に対する非相反輸送現象の検出に成功した。本系は、物質自体は3次元物質であるが、電界効果によって2次元電子系が形成され、さらに低温で超伝導になることが知られている。本系は、面局な極性を有するRashba系とみなすことができる。その非相反伝導度は、超伝導状態での非相反信号がノーマル状態に比して2桁以上大きくなることを見出し、そこに磁束の整流効果が需要な役割をしていることを明らかにした。[隣接する物質との強い近接効果に起因する新しい電子相]超伝導体NbSe2、TaSe2と強磁性体V5Se8など、種々の2次元物質をMBE法によって作製することに成功した。まず、NbSe2が 2次元超伝導性を示すことを確認し、さらにTaSe2は、膜厚が厚くても比較的強い2次元性を示す超伝導体であることを明らかにした。V5Se8はバルクでは反強磁性体であることが知られているが、本研究で薄膜化すると異方性の弱い強磁性を示すようになることを発見した。現在、超伝導体NbSe2とのVdWヘテロ接合を作製に成功している。
1: 当初の計画以上に進展している
[対称性の制御による非相反輸送現象や異常光起電力効果] WSe2/BPのVdWヘテロ接合のバルク光起電力については、南京大学(中国)、British Columbia University(UBC、カナダ)との共同研究を行った。バルク光起電力効果の実験的証明の一つは、光起電力が、レーザースポットを試料のどの位置に照射するとき現れるかを調べることによって得られる。そのためのマッピング装置を保有する南京大のYuan研にて井手上助教と修士学生が出張し共同実験を行った。一方、UBCでは、波長可変レーザーを用いて光起電力の励起波長依存性を明らかにする実験を行った。この実験も助教が出張して行った。これらの海外出張はすべて2019年の新型コロナウイルス感染症の流行以前に行ったものである。[隣接する物質との強い近接効果に起因する新しい電子相]では、上述したV5Se8と超伝導体NbSe2のVdWヘテロ接合の作製に成功している。その結果、NbSe2の超伝導が失われる代わりに、強磁性転移温度がV5Se8単体の10 K以下から20 K以上に上昇するとともに、強い面直磁気異方性を示すように変化することを見出した。さらに、理論との共同研究により、V5Se8の強磁性の増強がNbSe2特有のZeeman型スピン-軌道相互作用によってもたらされていることがあきらかにしたこれらについては最近論文が出版された(Nano Lett. 21, 1807 (2021))。VdW反強磁性体であるMnPSe3と遷移金属カルコゲナイドの一つMoSe2の単層のヘテロ接合を作製した。その発光スペクトルの温度変化が、反強磁性転移温度以下で異常を示すことを発見し、ヘテロ界面を通した励起子―マグノン相互作用が存在することを発見した(Nano Lett. 20, 4625 (2020))。
[対称性の制御による非相反輸送現象や異常光起電力効果] 反転対称性の破れや分極を直接プローブするSHGを導入する。現在、WSe2/BPヘテロ界面におけるツイスト角依存性の実験を行っており、この系の光起電力が現時点では説明できない振る舞いを見せている。この系は、並進、反転、回転、鏡映などすべての対称性が破れた、「非周期系の分極」という新たな問題を提起しており、SHGと合わせたデータは必須である。テンソル解析によって分極の方向を実験的に決定し、理論との共同研究により、これを明らかにする。また[2]のテーマにおいても、SHGは構造の基礎的評価として重要である。2次元物質、VdWヘテロ接合の対象制御手法として、新たに電界効果と歪効果を導入する。外場による対称性制御、特に電界効果は、バルク物質では強誘電体以外では不可能な現象なので、ナノ物質の対称制御の特性をさらに抽出できる手法である。[隣接する物質との強い近接効果に起因する新しい電子相]酸化物強磁性体(YIG)とMoSe2界面を用いたマイクロ波-可視光変換については、研究分担者の宇佐見准教授のグループとの共同研究を進めている。これまでにYIGにマイクロ波を照射すると強磁性共鳴が誘起され、それに合わせて、可視領域にあるMoSe2の励起子吸収のピーク位置が変化することを発見した。現在は、その効率の定量的な評価を行っている。酸化物強磁性体(YIG)とMoSe2界面を用いたマイクロ波-可視光変換については、研究分担者の宇佐見准教授のグループとの共同研究を進める。これまでにYIGにマイクロ波を照射すると強磁性共鳴が誘起され、それに合わせて、可視領域にあるMoSe2の励起子吸収のピーク位置が変化することを発見しが、今後は、その効率の精密な評価を行い、マイクロ波-可視光変換の効率を定量化する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 1件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (58件) (うち国際学会 29件、 招待講演 15件) 図書 (1件)
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