研究課題/領域番号 |
19H05603
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤澤 利正 東京工業大学, 理学院, 教授 (20212186)
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研究分担者 |
齊藤 圭司 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (90312983)
遊佐 剛 東北大学, 理学研究科, 准教授 (40393813)
橋坂 昌幸 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性研究部, 主任研究員 (80550649)
秦 徳郎 東京工業大学, 理学院, 助教 (30825005)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 低次元準粒子 / メゾスコピック / 量子ホール系 |
研究実績の概要 |
本課題「メゾスコピック量子ホール系の低次元準粒子制御と非平衡現象」では、強磁場中の半導体ヘテロ構造を用い、機能的量子素子の集積化によりメゾスコピック量子ホール系を形成し、一次元系準粒子(プラズモン・スピノン等)、二次元系準粒子(分数電荷・スカーミオン等)の非平衡現象を探求することで、量子ホール熱機関やトポロジカル量子工学への応用指針を得ることを目標としている。具体的には、一次元系準粒子の非相反伝導を利用して、整数・分数量子ホール領域での朝永ラッティンジャー流体の伝導制御を行い、量子化熱伝導・量子ホール熱機関の実現を目指している。また、二次元系準粒子のブレーディングなどの制御技術の確立を念頭に、量子アンチドットによる少数準粒子の制御、超高速走査型偏光分光顕微鏡による準粒子ダイナミクス、準粒子のトンネル過程の解明を進めている。 初年度となるR1年度は、メゾスコピック量子ホール系の基本物性の理解を深めるとともに、今後の研究に必要となる実験技術の向上・理論の構築などを中心に研究を進めた。具体的には、整数量子ホール系の非平衡現象に関して、[1]高エネルギー電子のフォノン散乱を抑制することで長距離のホットエレクトロン弾道輸送を実現し、[2]時間分解走査型偏光分光顕微鏡の開発によってエッジ状態の励起状態が伝搬する様子を時間空間的に可視化することに成功した。また、整数・分数量子ホール接合系において、[3]ショット雑音測定により、エッジの再構築や準粒子のダイナミクスを明らかにした。さらに、準粒子の制御技術を高めるため、[4]量子アンチドットの作製手法・微小電流測定技術を開拓した。また、理論研究では、[5]熱機関における熱効率や仕事率などを幾何学的にとらえる一般論を議論した。これらの実績により、メゾスコピック量子ホール系の低次元準粒子の制御や非平衡現象の探索を進めることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[1]量子ホールエッジチャネルを伝搬する高エネルギーのホットエレクトロンは、電子間相互作用が無視できる弾道輸送を示す。エッジのポテンシャル勾配を複数のゲート電極で変調することで光学フォノン散乱を抑制し、電子の弾道輸送距離を顕著に伸ばすことに成功した。[2]走査型偏光分光顕微鏡・フェムト秒レーザー・ストリークカメラを組み合わせた超高速時間分解装置の開発を進めた。偏光保持ファイバーを用いた共焦点系を組み、レーザーのパルス幅とエネルギー幅を任意に設定できる光学系により、空間分解能が向上し、時間分解能は数ピコ秒に達した。この系により、整数量子ホール系のエッジ状態の励起状態が伝搬する様子を時間空間的に可視化することに成功した。[3]分数-整数量子ホール微小接合の電流ゆらぎ測定により、電子相関効果を反映したエッジ状態の再構成を観測した。従来の占有率2/3量子ホール系と電子正孔対称な条件下で、エッジ再構成による電荷中性モードの形成を確認した。さらに、分数領域の分数電荷準粒子が接合に入射すると、整数領域に電子が出力され、同時に準正孔が後方散乱される様子を観測した。これは超伝導-常伝導接合におけるアンドレーエフ反射と類似の現象である。[4]量子ホール領域での準粒子を制御するため、量子アンチドットの作製・測定技術を開拓した。エアブリッジ型電極を用いた微小量子アンチドットの形成、コルビノ型電極を用いた微小電流測定手法により、数pAの微小電流のクーロン振動の観測に成功した。[5]量子ホール系での熱機関を探求する最初のステップとして、熱機関における熱効率や仕事率などを幾何学的にとらえる一般論を議論した。準静過程に近いパラメーター変化を考え、熱効率と仕事率の関係を「熱力学長」という量で記述することに成功した。また、与えられたサイクルにおいて、仕事率が最大になるためのプロトコルの一般論を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
R1年度の実績をもとに下記の研究を進める。整数・分数量子ホール接合系に関して、[1]電荷中性モードの観測結果を論文に纏める。電流ゆらぎ測定からエッジ電流の温度を測定し、電荷中性モードが運ぶ熱流の定量評価を行う。様々な占有率での実験により、電子相関効果によるエッジ再構成のメカニズムを明らかにする。[2]分数電荷準粒子のアンドレーエフ反射について解析を進め論文に纏める。占有率1/3と占有率1の量子ホール接合における電流ゆらぎ測定から、アンドレーエフ反射の電荷ダイナミクスのさらに詳細な理解を試みる。[3]電荷波束の時間分解測定によって、整数・分数チャネルのY接合における電荷波束の分数化現象を解明する。2つの量子ホール状態に挟まれた境界モードの電荷速度を評価し、分数電荷輸送の基本データを取得する。[4]量子アンチドットでの少数準粒子制御には、電子間相互作用の変調(遮蔽)が必要なため、エアブリッジ型微小ゲート電極と遮蔽ゲートによる量子アンチドット素子の作製・評価を目指す。[5]顕微時間分解分光装置の改良を進め、整数・分数量子ホール系のエッジ状態、特に占有率1/3のエッジ状態の励起状態の時間空間分解測定を目指す。より高速な時間分解を目指して、カー回転をプローブとする顕微時間分解測定の改良も進める。熱輸送に関しては、理論研究から[6]熱輸送や熱機関における量子性の役割に焦点を当てて研究を進める。顕著な量子現象である近藤効果を示す系において、温度差をリード線間につけたときに観測される電流や熱流のゆらぎの性質を明らかにする。電圧駆動のゆらぎと温度差駆動のゆらぎの違いを明らかにしたい。実験研究においては、[7]量子ドット分光法を用いて、量子ホールエッジにおける熱輸送現象を調べ、熱エネルギー(熱流)の評価、量子化熱伝導ステップの観測、さらに、量子ドット熱機関の熱効率の評価システムの構築を目指す。
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