研究課題/領域番号 |
19H05605
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
林 祥介 神戸大学, 理学研究科, 教授 (20180979)
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研究分担者 |
高木 征弘 京都産業大学, 理学部, 教授 (00323494)
榎本 剛 京都大学, 防災研究所, 教授 (10358765)
はしもと じょーじ 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (10372658)
杉本 憲彦 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (10402538)
今村 剛 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40311170)
堀之内 武 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (50314266)
三好 建正 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, チームリーダー (90646209)
石渡 正樹 北海道大学, 理学研究院, 教授 (90271692)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 金星大気 / 金星大気大循環モデルデ / スーパーローテーション / データ同化 / 「あかつき」金星探査機 |
研究実績の概要 |
データ同化に向けて「あかつき」観測データを精錬、雲追跡風ベクトル場を生成し、そこから大気諸相の特徴を抽出すること、および、データ同化試行実験を開始するとともに、データ同化の有効性を検証することに注力して研究を進めた。 大気諸相の特徴を抽出する研究で得られた成果の1つは雲層低緯度でのスーパーローテーションの維持機構を史上初めて観測から定量的に明らかにしたことである。「あかつき」撮像データからの雲追跡風ベクトル場と雲頂温度場、さらに、過去の探査機データをも活用し、各種大気波動による角運動量輸送量を求めることに成功した。低緯度の角運動量分布極大の維持には大気熱潮汐波による角運動量輸送が支配的であり、過去の研究で示唆されてきた大規模な乱流や熱潮汐波以外の波動による輸送は弱くむしろ逆に働いていた。この結果は今後のデータ同化実験に供され、得られた同化データの解析によってこれをもたらす循環構造が解明されていくことが期待される。 データ同化の有効性を検証する研究の成果の1つは、同化実験における雲層上端の惑星規模ケルビン波の再現可能性を示したことである。金星大気の紫外線画像には顕著なY字模様が見えるが、これを維持する構造として雲層上端に惑星規模赤道ケルビン波が想像されてきた。しかし、金星大気モデルで雲層上端にケルビン波を再現した例はこれまで報告されていなかった。この問題に対して、雲追跡風ベクトルを模した疑似観測データを与え、データ同化による観測システムシミュレーション実験を行い、雲層上端の赤道域南北15度の範囲で6時間ごとの風速データがあれば、ケルビン波がデータ同化により表現できることがわかった。「あかつき」観測の中に雲層上端のケルビン波をとらえているデータが存在すれば、モデルの不完全性を観測が補完し、あるいは、不完全性の原因を追求できる可能性があることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データ同化につなげるべく「あかつき」データの精錬と大気諸相の特徴抽出を進め、モデルと同化システムの諸開発を継続、力学同化実験に着手した。COVID-19の影響は少なくはないが、研究計画を全体としての変更はない。 [観測と解析]金星大気の特徴抽出の大きな成果としては、雲追跡風ベクトル場と雲頂温度場を用い、雲層でのスーパーローテーションの維持構造を史上初めて数量的に明らかにしたことがある。それは同時に雲追跡風ベクトル場の有効性をも示した。電波掩蔽観測からは、高度30㎞付近より上部での時間経度平均的な温度分布を明らかにでき、データ同化実験の大きな標的を得た。その他、諸波動擾乱の構造を明らかにし、雲物質分布などの解析を進めている。 [データ同化システム (ALEDAS-V)]金星大気データ同化のための基礎的見直しを進めるとともに、衛星観測放射輝度データの直接同化に向けて、ピクセル毎の輝度データの同化、画像の特徴抽出による同化、観測演算子の非線形性の寄与などの検討に着手した。 [モデル開発と同化実験] 金星の顔つき(紫外線で見える雲のY字模様)を定めると見られる惑星規模赤道ケルビン波の「あかつき」による観測可能性を疑似データを使った観測シミュレーション実験で検討、データ同化の有効性を検証した。また、「あかつき」集中観測期間についての雲追跡風ベクトル場の生成を完了し、風速場同化実験に着手した。モデル(AFES-Venus)については、データ同化につなげるべくモデル開発と数値実験を進め、モデルが表現する熱潮汐波、赤道ケルビン波と中高緯度ロスビー波等の構造解析を行っている。雲モデルの導入にも着手し、簡略化した設定による試験的な実験ではあるが、赤外観測と整合的な雲分布、水蒸気・硫酸蒸気分布を得ることができ、物質循環モデルに一歩近づくことができた。
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今後の研究の推進方策 |
「あかつき」観測への引き続き寄与しその解析に貢献することで観測からの情報を増やすこと、一方、モデル(AFES-Venus)の開発と数値実験を進めモデル金星大気の振る舞いを掌握すること、観測とモデルを接続するデータ同化システム(ALEDAS-V)の開発と改良を進めること、以上を再帰的に進めることにより、「『あかつき』金星気象データセット」に至り、大気擾乱の存在と構造、物質輸送と雲構造を探求し、金星大気の子午面循環と角運動量輸送を掌握、「スーパーローテーション」の謎に迫る。特に、令和2年度までの活動を継承発展し、令和3年度は以下のように勧める。 「あかつき」観測は継続しており、本研究においては引き続きデータの精錬と雲追跡風ベクトルの生成や解析を続け、モデルによる数値計算と組み合わせて特徴現象の抽出を行う。 データ同化システム (ALEDAS-V)については、金星大気固有な誤差共分散や局所化等の設定見直し等を進める。また、衛星観測放射輝度データの直接同化に向けて、機械学習を用いる方法や画像の特徴抽出による方法などの試行を行う。これと融合するべく、モデルデータからのモデル化レベルに応じた観測演算子を考案・検証し、データ同化システムの構築を進める。 力学場同化と大気擾乱の同定に関しては、特徴的な大気構造を鍵とした力学同化を本格的に稼働させ、同化場の生成を行い、その解析に着手する。特に、「あかつき」集中観測ならびに電波掩蔽観測から得られた平均温度場構造がデータ同化実験の主要な標的となりとその解析が当面の作業課題となる。雲・放射場同化と雲層の理解に関しては、観測および数値計算から雲物質循環の特徴を抽出することを引き続き進め、放射伝達モデル・雲モデルの開発改良につなげるとともに、衛星観測放射輝度データの直接同化に向けた同化システムの設計検討を行う。
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