研究課題/領域番号 |
19H05610
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
樽茶 清悟 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, グループディレクター (40302799)
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研究分担者 |
ロス ダニエル 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (00524000)
ディーコン ラッセル 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (40552443)
松尾 貞茂 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (90743980)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 非可換エニオン / ナノ細線 / スピン軌道相互作用 / 朝永ラッティンジャー液体 / トポロジカル超伝導 / マヨラナ粒子 / 励起子ポラリトン |
研究実績の概要 |
非可換エニオンの候補系として(1)1次元、(2)2次元のトポロジカル超伝導、(3)励起子ポラリトンの光制御を研究した。 (1)二重InAs細線超伝導接合について、採択以前に検出していた弾道的クーパー対分離のゲート電圧制御性を詳細に調べ、非局所近接超伝導のエネルギーが局所超伝導より大きいという、無磁場エニオンの発現条件が満たせることを確認した。また、非局所近接超伝導が局所超伝導の臨界磁場の1/2の磁場で消える現象を発見した。 スピン軌道結合の強いInAs細線の朝永ラッティンジャー液体(TLL)効果について、スピン軌道結合の影響は非常に小さいことを実験的理論的に解明し、また電流バイアス特性の普遍的なスケーリング式を理論的に一般化した。この結果は様々な物質のTLL性を特定し、また細線中の強い電子間相互作用を検証するための手法を提供する。これらの系は無磁場でのトポロジカル相の実現に必要な要素を与える。 後に予定する分光測定に適した透過率の高いジョセフソン接合(JJ)を実現するため、hBNを内包したWTe2デバイスの作製法を新開発した。空気に触れることなく、hBN-WTe2-hBNスタックのエッチングと端接触電極の作製が可能になった。またAndreev状態の分光実験に向けて、サファイア上の共振器またはJJ検出器をデバイス基板と組み合わせるフリップチップ法を開発した。 (2)3次元トポロジカル絶縁体のBiSbTe薄膜を用いてJJを作製し、シャピロ階段を測定した結果、エニオン生成を示唆する、奇数倍の階段の消失は観測されなかった。その原因が接合に並列の大きな電気容量の存在と近接効果の不足にあることを解明した。 (3)励起子ポラリトンによるエニオン生成に必要な基盤技術の開発を開始し、ポラリトンに対する格子構造を作るためのプロトン注入とポラリトン凝縮状態を操作するための光学モード形成の技術を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
弾道的クーパー対分離では、世界で初めて電子相関の強い一次元電子系に対して高効率で分離が起きることを実証することにより、1次元電子系間での超伝導相関を実現する上で基盤となる物理を解明した。またTLL性の研究ではスピン軌道結合とTLL効果が共存する電子輸送の物理を理論実験両面から解明した。1次元電子系の普遍的な基礎物理の解明は高く評価されており、国内外の会議で招待講演を受けている。 ナノ細線の理論にでは、様々な電荷不純物を含む1次元電子系電荷輸送を解析し、また普遍的スケーリング理論をInAs細線に適用し、マヨラナ束縛状態を有する二重ナノ細線の構成に適することを確認した。これにより当初計画の目的を達成した。 今回開発に成功したフリップチップ法は、後に予定する分光実験に必要な技術であり、この技術をWTe2 JJのアンドレーフ状態の分散の検出実験などに適用することを目標としている。今年度は、単層WTe2材料への端接触電極を実現するレシピの開発に成功したが、同JJデバイスは冷却/熱サイクル時に劣化しやすく、超伝導特性も不十分なことから、本計画には適さないという問題が判明した。次年度は、まずその解決策の検討を継続する。 マイクロ共振器ポラリトンに関しては、計画に沿って、非線形トポロジカル光学状態を作るための技術開発を行った。これらの技術は光学的にエニオンを生成するための様々な方法(任意のトポロジカル格子、強相互作用状態の閉塞現象などの形成)に広く応用できる。 以上、ナノ細線については非局所超伝導エネルギーの電圧制御、TLL性の普遍的スケーリングの導出など、当初計画を上回る進捗、WTe2デバイスの作製技術と分光技術の開発、トポロジカル絶縁体BiSbTe JJのシャピロ測定、ポラリトンの光学制御に向けた基盤技術開発などは、WT2eの検討事項を残しているものの、ほぼ計画に沿った進捗を達成している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)二重ナノ細線を用いたマヨラナ粒子の検出では、当初計画していたシャピロ階段測定から、ジョセフソン放射とマイクロ波分光測定を主にすることに変更している。また、従来作っていた自己形成型二重ナノ細線デバイスは歩留まりが悪いため、選択的成長法で成膜したデバイスに切り替え、非局所超伝導相の物理の解明につながる実験を行う。単一細線の超伝導特性やその磁場依存性の基礎実験を追加し、マヨラナ粒子の根拠とされている実験的証拠を検証する。 2次元トポロジカル絶縁体の近接端チャネルにおけるマヨラナ束縛状態の理論に取り組み、磁気不純物や電荷不純物の後方散乱に対する安定性を有限磁場で調べる。このためには解析的計算と数値シミュレーションを組み合わせて、様々な構成についてBogoliubov-de Gennes方程式を解く。 単層のWTe2デバイスでは、カプセル化された多層材料によるJJの作製が予想外に困難であることが分かった。その結果、将来のデバイスのアーキテクチャはより複雑になり、さらなる開発が必要になる。この問題に対処するために、次年度はゲートで形成するWTe2超伝導デバイスの作製を検討する。また、開発したフリップチップ法を用いてトポロジカル絶縁体HgTeをベースとするJJの共振器結合を研究する。 (2)トポロジカル絶縁体に関してはコルビノ型JJの測定を開始し、渦の大きさの評価を試みる。 (3)ポラリトンの光制御では、当初計画していたプロトン注入によるトポロジカル格子の作製と光によるポラリトン回転の技術開発を、ポラリトン相互作用を増強するためのプロトン注入技術とポラリトン縦方向フローの光操作の技術開発に変更している。これを次年度も継続し、励起子ポラリトンの非線型トポロジカル状態の実験実証を加速する。再来年度からは、2次元格子と光誘起のゲージ場の技術を組み合わせて、ポラリトンのトポロジカル格子を実装する。
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