研究課題/領域番号 |
19H05611
|
研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
高木 浩一 岩手大学, 理工学部, 教授 (00216615)
|
研究分担者 |
大嶋 孝之 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30251119)
林 信哉 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (40295019)
王 斗艶 熊本大学, 産業ナノマテリアル研究所, 准教授 (30508651)
袁 春紅 岩手大学, 農学部, 准教授 (80431336)
高橋 克幸 岩手大学, 理工学部, 准教授 (00763153)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
|
キーワード | パルスパワー / プラズマ / 生長促進 / 植物 / 食品機能性 / 鮮度保持 / たんぱく質立体構造 / ストレス |
研究実績の概要 |
電界・プラズマ作用場の時空間制御では、SiC-MOSFET素子を用いた操作性に優れた小型パルスパワー電源を開発した。出力電圧は数kV~数十kV、パルス幅は数十nsである。プラズマ進展速度は気相で約1 mm/ns、液相で約30 cm/μsである。このため気相では100 ns以下が非熱平衡プラズマの生成条件で、液相ではμ秒オーダのパルスが必要になる。電源は生体負荷を想定して、高インピーダンス整合性が高い誘導性エネルギー蓄積方式を用いた。また約55kV、5 nsの電源での空気中ストリーマは、約6 mm/nsと一般のストリーマより速く進展し、電子のエネルギーも高いなど、一般的なプラズマ反応場よりエネルギーが高い反応場が実現できている。植物生理活性制御では、カリキン類由来発芽促進を想定して、カリキン由来遺伝子の酸素プラズマ照射などに伴う増加の様子や、カリキン類が生成される機序はラジカルが種皮の酸化を引き起こし、テルペノイド系の植物ホルモンが産生された結果、生じた可能性が強いことなど、種皮のFTIR解析などがから情報を得ている。電界による光合成活性は、ETR、A、Eが増加することから、ストロマ反応でルビスコ活性などによるCO2の取り込み速度の上昇、化学エネルギー生成上昇によること、光合成不活性化はチラコイド反応で脱エポキシ化に伴う熱放散が機序となる。鮮度保持・食品機能性制御では、パルス電界により酵素活性が変化すること、また活性変化は印加電界強度に依存すること、たんぱく質の構造変化と酵素活性は相関があることなどを明らかにした。水の氷核形成について、交流電場は頻度因子へ主に作用すること、微小ではあるが自由エネルギーにも作用することなどを明らかにした。水産物の生鮮状態での保存時での電界印加で、呼吸速度や心拍数など生理(酵素)活性へ作用することも明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、パルス電界・プラズマ複合反応場による植物・水産物の革新的機能制御の実現と作用機序を礎とした学術深化を目的として、①パルスパワー技術を基礎としたナノ秒、マイクロスケール反応場創出といった高精度の時空間制御を実現、その反応場を活用して、②パルス電場やプラズマ照射後の種子や植物体のレドックス変移やエピジェネティクス、遺伝子発現などを通した活性化の機序解明、③パルス電界・プラズマ複合反応場での農産物や水産物のタンパク構造変化、機能性向上、酵素や発酵微生物の活性制御を計画していた。①では、SiC パワー半導体スイッチング素子を用いた小型パルスパワー電源の開発などを進め、コンパクトな電源、またそれを用いたプラズマ生成が実現している。実施項目②でも植物のジベレリン、ブラシノステロイドのシグナル伝達経路の活性化、Karrikin受容を律速する遺伝子の発現、炭素固定速度が10%増加、特に暗順応レタスに有意な差が出ることの機序解明に至っている。項目③についても、卵白アルブミンの抗体結合能の減少、α-アミラーゼ残存活性減少はトリプトファンを含む構造変化に起因すること、酵母のグルタチオン代謝の活性化、農産物の呼吸量の減少、植物ホルモンの活性の減少、電場中の凍結で頻度因子が変わり、氷核成長速度や氷結サイズが変わることなど、おおむね計画に記載した内容で、多くの知見・成果を得ている。学術深化・世界先導の実現についても、学会誌(J. Phys. D)や作用機序が主眼となるレビュー論文の掲載(Jpn. J. Appl. Phys.)、Physics World (IOP)でも注目論文として取り上げられるなど、世界的にも注目されている研究として認知されている。おおむね計画通りに研究を進めており、目的に即した知見が得られていることから、「おおむね順調に進展している」の区分とした。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度も昨年度に続き、研究代表および研究分担者が分担している研究テーマを計画に即して実施している。ここまではおおよそ計画通りに進められている。次年度は、研究代表が中心となり、研究分担者との情報共有をさらに密にして、お互いの成果や得られている知見を共有しつつ、本分野を日本・世界で牽引するように展開していくことを意識しつつ、学理深化とプラットフォーム形成、成果の発信などを推し進める。お互いの成果の共有のための推進会議を、熊本大学で10月くらいで行い、論文の特集号や、研究会でのテーマ付きセッションなどの提案も行っていき、本研究に携わっている研究者を核にしつつ、本分野の研究者の裾野拡大をさらに推し進めていく。具体的な実施計画は、以下となる。項目①;電界・プラズマ作用場の時空間制御では、生体負荷の時間応答性やインピーダンス変化を踏まえ、本研究実施に適した電圧波形およびプラズマパラメータとなるように、電源の回路パラメータなどの再評価を行い、その結果をもとに改良する。また複数の電源やプラズマを統合的に制御して時空間制御性を高める。項目②;植物生理活性制御では、発芽ではカリキン類由来の発芽促進を含めて遺伝子発現などの解析を進め、シグナル伝達など、電界・プラズマ刺激起点のレスポンス経路を調べる。光合成促進についても、明順応および暗順応の植物を用いて、異なる電界パラメータによる評価などを進める。地下茎は土・養液での化学反応、またその生成物が根から吸収されて起こる植物生理を中心に機序解明を進める。項目③;農水産物の鮮度保持・食品機能性制御では、殺菌へ至る機構解明やたんぱく質の構造変化、水分子の氷核形成に対する電場の影響を中心に研究を進める。特に、タンパク質の二次構造の変化や、ATP分解酵素(ATPase)の活性を中心に、付随して生じるpH変化、鮮度指標としてのK値などを中心に進める。
|