研究課題/領域番号 |
19H05611
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
高木 浩一 岩手大学, 理工学部, 教授 (00216615)
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研究分担者 |
大嶋 孝之 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30251119)
林 信哉 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (40295019)
王 斗艶 熊本大学, 産業ナノマテリアル研究所, 准教授 (30508651)
袁 春紅 岩手大学, 農学部, 准教授 (80431336)
高橋 克幸 岩手大学, 理工学部, 准教授 (00763153)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | パルスパワー / プラズマ / 生長促進 / 植物 / 食品機能性 / 鮮度保持 / タンパク質立体構造 / ストレス |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度実施した電界・プラズマ作用場の創出およびその時空間制御やプロトタイプの反応場を用いて実施した生体反応の基礎的な特性の把握をもとに、植物の生体反応・生理活性やたんぱく質構造変化などの詳細の解明を進めた。電界・プラズマによる植物の活性制御とその機序解明では、これまで開発した低電力パルスパワー電源やプラズマリアクターを利用して 、パルス電場やプラズマ照射後の植物発芽・生長促進、また防病機構の活性化、光合成活性化などについて、種子や植物体のレドックス変移や発現遺伝子解析などを通して機序を調べた。その結果、種子へのプラズマ照射は抗酸化活性の増加、メチル化の抑制(エピジェネティクス)、クロロフィルの増加、光合成の増加、貯水性の向上、ATP合成増加、葉面積の増加に至ることがわかった。葉へのプラズマ照射は、葉へのストレスからタンパク質の修復のための酵素増産などで生長は減少することがわかった。葉への電界印加は、0.1kV/cmで生長促進、1.0kV/cmで生長阻害につながる。生長促進に最適な電界では葉の気孔開口度も優位に増加することがわかった。鮮度保持・食品機能性制御においては、卵白アルブミンを用いた実験により、パルス電界印加でエピトープの位置が変化して抗体との結合が増えるなど、構造変化を促すことが確認できた。またこの変化は二次構造の変化を伴わないこともわかった。魚介類を対象とした評価は、ホタテの心拍数が1.0kV/cmの電場環境下では有意に減少することなどが明らかになっている。これらの成果は、Nature Springer発刊の専門書や、学会が刊行する解説論文として周知するなど、社会還元も並行して進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、パルス電界・プラズマ複合反応場による植物・水産物の革新的機能制御の実現と作用機序を礎とした学術深化を目的として、①パルスパワー技術を基礎としたナノ秒、マイクロスケール反応場創出といった高精度の時空間制御を実現、その反応場を活用して、②パルス電場やプラズマ照射後の種子や植物体のレドックス変移やエピジェネティクス、遺伝子発現などを通した活性化の機序解明、③パルス電界・プラズマ複合反応場での農産物や水産物のタンパク構造変化、機能性向上、酵素や発酵微生物の活性制御を計画していた。①では、SiC スイッチング素子を用いた小型パルスパワー電源の開発などを進め、汎用性の高いコンパクトな電源や時空間制御されたプラズマ反応場の創成を実現している。実施項目②でも植物の種子や葉へのプラズマ照射の作用の違いとその機序について、抗酸化活性の増加に由来する反応などをもとに明らかにしている。またパルス電界印加に対しても、炭素固定速度が10%増加や、その際、葉の気孔開口度も変わることなど機序解明に資する成果が得られている。項目③についても、電界印加に伴う卵白アルブミンの抗体結合能の減少をエピトープの位置変位の面から明らかになったこと、電場中の凍結で頻度因子が変わり、氷核成長速度や氷核サイズが変化すること、またそれらの印加電界強度や周波数依存性の把握など、おおむね計画に記載した内容で、多くの成果を得ている。学術深化・世界先導の実現についても、Nature Springer社からの専門書の発刊や、レビュー論文の掲載(Reviews of Modern Plasma Physics, 112ページ, 2021.12)など、世界的にも注目されている研究として認知されている。おおむね計画通りに研究を進めており、目的に即した知見が得られていることから、「おおむね順調に進展している」の区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
これまで研究代表および研究分担者が分担している研究テーマは計画に即して進められている。次年度も当初の計画に従って進める。すなわち、項目①;電界・プラズマ作用場の時空間制御では、昨年度に引き続いて生体負荷の時間応答性やインピーダンス変化を踏まえたパルスパワー電源の最適化、また微小領域への特化も考え、低電力(低電圧・定電流)パルスパワー電源の開発を行い、本研究グループ以外とも連携した研究を展開する。項目②;植物生理活性制御では、プラズマや電界印加による発芽促進では、これまで明らかになっている機序をさらに深めるためカリキン類関連の植物ホルモンや関連遺伝子の発現の解析を進め、電界・プラズマ刺激起点のレスポンス経路を調べる。植物本体への刺激に対しても、刺激に対するレスポンスの起点として抗酸化活性の増加を想定して光合成など生長促進機構について検討を進める。項目③;農水産物の鮮度保持・食品機能性制御では、殺菌へ至る機構解明として損傷菌や電界・プラズマと菌の生存環境との相互作用の観点から検討を進める。タンパク質の構造変化についても、卵白アルブミンを用いたエピトープの位置変化を抗原抗体反応を通して調べ、それらとCD解析によるタンパク質の二次構造の変化から、電界やプラズマのタンパク質印加への酵素活性などへ与える影響、またアレルゲンフリー食品など社会実装への検討を行う。凍結保存についても、電界印加が水分子の氷核形成に対する電場の影響など、アレニウス則を基本とした解析を通じて作用機序を明らかにする。水産物の鮮度保持については、ATP分解酵素(ATPase)の活性、ATP関連生成物、K値評価を中心に作用をとして扱う。本研究に携わっている研究者を核にしつつ、本分野の研究者の裾野拡大をさらに推し進めるように、国際会議の実施、テーマ付き論文の企画、ワークショップの開催などを通して積極的に成果発信を進める。
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