研究課題/領域番号 |
19H05615
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山下 太郎 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (60567254)
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研究分担者 |
田中 雅光 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (10377864)
猪股 邦宏 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (50525772)
宮嶋 茂之 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室, 研究員 (50708055)
竹内 尚輝 横浜国立大学, 先端科学高等研究院, 特任教員(准教授) (00746472)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 超伝導 / 量子回路 / ジョセフソン接合 / スピントロニクス / モノリシック |
研究実績の概要 |
本年度は量子計算回路実現に向けた基盤となる、磁性ジョセフソン接合を有する量子回路及び半磁束量子(HFQ)回路に関する各要素技術及び評価系の研究開発を進めた。山下は、π量子ビット量子回路を作製し、理論提案されていた外部磁場フリー動作の実証に世界で初めて成功した。またマスクレス露光装置等の設備を導入し、今後の効率的な大規模回路素子作製の技術基盤を立ち上げた。猪股は、π量子ビット及び周辺回路の材料となるNbN/TiN超伝導薄膜の極低温評価を進めた。NbN/TiNのマイクロ波共振器を設計・作製し、量子回路の重要な性能指標である共振器のQ値を10mKで評価した結果、約3×10^5が得られ更なる改善を進めている。田中は、量子ビットの制御や読み出しを行う超低エネルギー回路を実現するため、HFQ回路の低エネルギー化に関する検討を進めた。低エネルギー化の手法として、駆動電圧の低減化について数値解析を進めた結果、磁性ジョセフソン接合のループの導入により従来回路に比べ、1/10以下に駆動電圧を下げることが可能であることが分かった。消費エネルギー、動作速度への影響に関する解析結果をまとめ、論文投稿の準備を進めている。宮嶋は、HFQ回路を実現するための回路作製プロセスの検討を進めた。HFQ回路は通常のジョセフソン接合とπ接合の2種類の接合が混在した集積回路であるため、この回路を1つのチップ上に実現するためにNbNベースHFQ回路の作製プロセスを考案し、プロセス条件の最適化を行った。竹内は、断熱磁束量子パラメトロン(AQFP)回路を用いることで、非常に低い電力でマイクロ波のオン/オフ制御を行うことが可能であることを明らかにした。本回路をNbプロセスを用いて作製し、液体ヘリウム中でマイクロ波のオン/オフ制御を実証した。さらに数値解析を用いて、出力マイクロ波の振幅や位相を制御可能な回路の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究の核となる磁性ジョセフソン接合を含んだπ量子ビットに関して、明瞭な外部磁場フリー量子動作実証に成功した。これは今後の量子回路の大規模化実現に対して極めて重要なステップを達成したことを意味する。現在、量子ビットの性能指標であるエネルギー緩和時間として、1μ秒程度が得られており、作製プロセスや材料選択、設計等の様々な観点から性能改善を進めている。また極低温評価系の構築及び量子回路評価に関しても、産総研を中心に計画通り進展しており、既にNbN/TiN量子回路の作製と極低温評価を行った他、希釈冷凍機システムによる大規模量子ビット評価のための測定系増設に向けた準備を進めている。さらに室温評価系の整備により時間領域測定に向けた準備も着手済みである。また名古屋大学においても、希釈冷凍機による量子回路及び半磁束量子(HFQ)回路の極低温特性評価系の構築が順調に進んでいる。HFQ回路に関しては、臨界電流値の低減と今回検討した低電圧駆動とを併用することにより、2, 3桁の低エネルギー化を見込めることが明らかとなり、量子ビットと同じ温度ステージに回路を設置しても十分冷却が可能である見込みが得られた。また量子ビット操作のためのマイクロ波制御低温回路の検討も順調に進んでおり、新たに低電力マイクロ波制御回路を提案・設計・作製し、低温下でのマイクロ波のオン/オフ制御の実証にも成功している。回路素子の作製プロセスについても、NICTにおいてNbN接合による超伝導集積回路の作製を行い、最終的な大規模モノリシック回路まで見据えたプロセスの最適化を進めた。さらにNICT保有の露光装置を用いて0.5 μmの優れた位置分解能を実現することが出来ており、回路を作製するために十分な位置精度が達成されている。以上の事実から、本研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まずπ量子回路に関しては、主に山下と猪股が中心となり、π量子ビットの1量子ビットゲート動作において、継続して量子ビットの性能指数であるエネルギー緩和時間及びコヒーレンス時間を評価し性能指数の改善に取り組む。また、量子回路の大規模化に向けたレイアウトの検討に着手する。具体的には,スケール可能な2量子ビットゲートの結合方式及びレイアウトの検討を行い量子回路の作製を進める。さらに、山下が中心となって各研究分担者との議論を通じ、その先のモノリシック量子回路を念頭に置いた全体レイアウト設計や作製プロセス検討も行う。また並行して産総研においては、複数量子ビット評価系の立ち上げや実装・測定環境の整備を進める。半磁束量子(HFQ)回路については田中が中心となり、現在立ち上げが進んでいる名古屋大学内の希釈冷凍機システムを用いて、回路要素の10mKステージでの特性評価を計画している。まずは量子ビット制御を念頭に、マイクロ波信号のスイッチ回路についての設計と極低温評価を進める。竹内は、チップレイアウトの改善等を行うことで入出力ポート間のクロストークを抑制し、2019年度に動作実証したマイクロ波制御回路のオン/オフ比の改善を行い、量子回路制御に要求される30dB程度の達成を目指す。さらに、出力マイクロ波の振幅や位相を制御可能な回路の動作実証も行う。量子回路及びHFQ回路の作製プロセスに関しては、宮嶋が中心となり回路作製プロセスの最適化を進め、簡単な構成の回路の作製及び動作実証を目指す。また、低消費エネルギー集積回路として低臨界電流密度を有するNbN接合を用いた集積回路作製プロセスの構築を行うことを計画している。
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