研究課題/領域番号 |
19H05618
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
藤村 紀文 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50199361)
|
研究分担者 |
吉村 武 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30405344)
是枝 聡肇 立命館大学, 理工学部, 教授 (40323878)
佐藤 琢哉 東京工業大学, 理学院, 教授 (40451885)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
|
キーワード | 強誘電体 / 素励起 / コヒーレント状態 / 急峻スイッチトランジスタ / 負性容量 / 電気熱量効果 / 熱マネジメントデバイス |
研究実績の概要 |
・強誘電体ゲート型トランジスタ(FeFET)のゲート絶縁膜として期待されている,HfO2極薄膜をスパッタリング(SP)装置,パルスレーザデポジション装置(PLD),そして新規に導入したALD装置を用いて作成した.詳細な成長プロセスの検討を行うことによって,SP法では多結晶膜が,PLD法ではエピタキシャル膜を得ることができた. ・この高品質の(Hf,Zr)O2極薄膜(10nm)試料を用いて,負性容量FETの機構解明に対して重要な情報であるにもかかわらず,これまでに評価できなかった「分極保持中の内部電荷」の正確な評価法に関して,「正圧電応答を用いた解析」という新規な手法を開発し,世界で初めて可能にした. ・「急峻スイッチトランジスタ(負性容量FET)動作の新しい物理描像」を新たに提案することができた.負性容量は,強誘電体/半導体界面における減分極電界(強誘電体の自発分極と逆向きの電圧でゲート印加電圧と同じ向きになる)と半導体表面に形成する空乏層の形成の影響であることがわかった. ・コヒーレントフォノン/マグノンの評価において,YMnO3やBiFeO3薄膜を用いた評価は,100nm以上の膜においては評価が可能になっている.時間遅延を作るためにシェイカーを用いた評価方法を開発し,より薄い膜での評価や弱励起での評価が可能になり10nm厚のHfO2系極薄膜を用いた評価の可能性が広がった.マルチフェロイック物質であるBiFeO3の単結晶試料に対して,円偏光ラマン散乱分光を実施し,マグノンと光との間に角運動量の授受があることを見出した. ・計算機シミュレーションを行い,強誘電体薄膜を用いても高周波駆動することによってヒートポンプとしての駆動が可能であることが明らかになった. ・熱ダイオードの原理検証のため,有限要素法による熱波動伝搬のシミュレーションを進めた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【HfO2系極薄膜の作製】新型コロナウイルス感染症の拡大影響により,当初計画していた薄膜試料・素子作成に遅れが生じた.良好な強誘電性を示す試料が得られず,わずかな強誘電性を測定する手法やどうして強誘電性が変化するのか,などの評価実験に注力した結果、HfO2系極薄膜の内部電荷移動に関する重要な知見が得られた.当初は全く予定していなかったが,本研究の本質である,素励起を利用した分極反転のダイナミクスの評価結果を正しく議論するための基礎的な情報を得ることができ,極めて大きな進展が得られた. 【強誘電体の素励起評価方法】2020年度上半期は新型コロナウイルス感染症の拡大により,例えば,立命館大学では,入構が禁止,あるいは制限されたため,実験が停止した.そのため,リモート環境での開発がある程度可能な,熱の波動原理に基づく熱伝搬の一方向性デバイス(いわゆる熱ダイオード)の熱波動伝搬シミュレーションなど 在宅での作業を先に進めた.このような状況は,大阪府大や東京工業大でも同様である.一番大きな問題は,人の移動が制限されたことである.当初から2021年度からグループ間交流が本格化する予定であったため,大きな後れは感じていない.2021年度,新型コロナウイルス感染症の拡大影響により,人の移動が制限されるようであれば,本来あまり好ましいことではないが,試料を送付して評価を進める.一方で,各グループ内で,薄膜試料に対応するための精密評価方法の確立や新たな素励起評価手法の開発など,当初は全く予定していなかった成果(前ページに記載)が次々と報告された.「マグノンと光との間の角運動量の授受」や「マグノンとフォノン・ポラリトンの時間分解イメージング測定」など素晴らしい成果が得られている.
|
今後の研究の推進方策 |
1-1. 電界を印加せずに評価する HfO2 系極薄膜の内部電荷移動の正確な評価方法を新規に構築することができたので,空間電荷の時間変化などが生じない高品質 HfO2 系強誘電体極薄膜を見分けることが容易になった.この評価方法を用いて,高品質 HfO2 系の作製を精力的に進める. 2.HfO2 系極薄膜として,当初予定していた HfO2:Y や(Hf,Zr)O2 だけでなく,希土類イオンをドーピングした HfO2:X 試料を用いることを新たに追加する. 3.強誘電性自発分極の分極反転ダイナミクスおよび双安定性のパルス電場に対する過渡応答を電気的,誘電的に測定し,シミュレーションパラメーターとして利用する. 4.円偏光ラマン散乱分光を用いた薄膜試料の評価を試みる. 5.強誘電体内部において電気熱量効果によって得られた熱の運搬,吸熱,発熱に関する実験データを得ることによって熱ダイオードを固体素子で実現できる可能性を追求する. 6.ピコ秒レーザーをポンプ光に用いるインパルシブ誘導熱/ブリルアン散乱システムと高強度テラヘルツ波レーザーを用いてソフトモードを共鳴励起しながらコヒーレント第二音波を発生させる. 7.二次元的な初期温度の振幅・位相パターン(熱ホログラフィ)や,時間変化するダイナミックな初期温度分布を励起することに挑戦する.それによって,熱の波動性をより顕著 に引き出すことが可能となる. 8.熱の波動原理に基づく熱伝搬の一方向性デバイス(いわゆる熱ダイオード)の原理検証のため,有限要素法による熱波動伝搬のシミュレーションを進める.
|