研究課題/領域番号 |
19H05624
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野地 博行 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00343111)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 1分子計測 / デジタルバイオ分析 / フェムトリアクタ / ナノバイオ / インフルエンザ |
研究実績の概要 |
我々は、フェムトリットルサイズの超微小溶液リアクタアレイ技術(fLリアクタ技術)を開発し、これを利用した1分子デジタルバイオ分析分野を牽引してきた。しかし、これまでのfLリアクタは受動的に溶液を収納するだけであり、その応用範囲には制限があった。本プロジェクトは、これまでの「静的」なリアクタ技術から「動的」なリアクタ技術へと基盤技術を一新することを目的としている。研究項目の柱は、項目1「動的fLリアクタデバイスの基盤技術開発」、項目2「on-chip統合型デジタルバイオ分析法の確立」、項目3「分子個性の多次元解析と個性発現メカニズムの解明」である。2019年度は、主に1の項目に取り組んだが、残りの二項目においても着実な進展があった。 項目1ではon-chip溶液交換技術を確立した。これまでの方法では、fLリアクタを封入するために用いるoilが残留するため歩留まりに限界があった。今回、oilではなく空気でfLリアクタの上部をシールするair seal法を確立し、飛躍的に再現性の高い手法の確立に成功した。項目2では、ナノ粒子を用いた手法及びsplit型酵素を用いた手法を検討している。ナノ粒子法では、これまでの酵素反応ではなくブラウン粒子の運動解析からターゲット分子を検出する新手法の開発に成功し、B/F分離を必要としない超高感度免疫測定反応を達成した(ACS Nano 2019)。現在、他項目計測に取り組んでいる。項目3では、項目1で確立した高い再現性の溶液交換法を活用し、酵素・ウイルスの「個性」を触媒活性のばらつきの計測に取り組んだ。特に、インフルエンザウイルスの阻害剤に対する耐性を粒子ごとに計測することに成功し、50%阻害濃度(IC50)が粒子毎に20%程度異なることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本プロジェクトの柱は、項目1「動的fLリアクタデバイスの基盤技術開発」、項目2「on-chip統合型デジタルバイオ分析法の確立」、項目3「分子個性の多次元解析と個性発現メカニズムの解明」の三本である。2019年度は、主として技術的色合いの強い項目1に取り組んだ。その結果、溶液交換技術の確立に成功した。これ以外にも、能動的濃縮技術に関しても極めて有効な結果が得られており2020年度はその定量解析と最適化を予定している。残りの二項目においても着実な進展があった。特に、項目2ではナノ粒子を用いたB/F分離を必要としないデジタルバイオ分析の新手法の確立に成功し原著論文発表に至った(ACS Nano 2019)。この手法はすでに多項目検出も検証が進んでおり、さらなる発展が見込まれる。項目3では、インフルエンザ及び酵素(アルカリフォスファターゼ)の分子個性の定量計測に成功している。特にインフルエンザに関しては、タミフルの50%阻害濃度(IC50)が粒子毎に異なることを定量計測により示すことに成功した。これは、ウイルスが薬剤耐性をどのように獲得するのかを見る上で極めて重要な知見を与える基盤となると考える。 以上の通り、全て研究項目で着実な成果が得られており、総じて良好であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
項目1「動的fLリアクタデバイスの基盤技術開発」に関しては、溶液交換の技術が確立したため、動的濃縮技術及びリアクタ回収技術の確立を目指す。動的濃縮技術としては、予備的データが得られている液液相分離現象を用いた系の開発を主眼とする。この有効性を示すために、酵素やDNAなどを用いた実験を行い、デジタル計測などに対する有効性を定量評価する。リアクタ回収に関しては、光ピンセットを用いた回収技術に取り組む。この技術は、DNAなどの増幅反応後の解析や、酵素スクリーニングのハイスループット化に利用する。 項目2「on-chip統合型デジタルバイオ分析法の確立」は、2019年度に開発したナノ粒子を用いたB/F分離のいらないデジタル免疫測定法の多項目検出を検討する。これによって、複数検査項目を並列に超高感度検出する系が確立される。また、並行してスプリット型酵素を用いたデジタルE L I S Aの開発にも着手する。特に、ALPなど2量体や4量体を形成する酵素の界面に変異を導入することによるスプリット化を目指す。 項目3「分子個性の多次元解析と個性発現メカニズムの解明」に関しては、すでにALP及びインフルエンザの個性を酵素活性として検出することに成功している。その分子個性の由来を解明するため、ALPに関してはクライオ電顕を用いた構造解析、インフルエンザに関しては粒子のゲノム配列構造解析を目指す。このための技術開発に着手する。
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