GW級のアト秒パルスの極限集光用軸外し放物面鏡を開発した。非線形光学現象を誘起するためには、10^14 W/cm^2を超える強度が必要であり、このためには短焦点で回折限界にせまる集光系が要求される。しかしながら、アト秒パルス光の波長は極端紫外から軟X線の波長域にあるため、赤外や可視領域に比べて遥かに高い表面精度のミラーが必要となる。開発したミラーは焦点距離60 mmの軸外し放物面鏡であり、その表面粗さは0.5nm RMSであり、同程度の形状誤差の空間波長を仮定した集光シミュレーションにより、直径1ミクロン以下の集光ビームプロファイルが得られた。以上の結果から、開発した軸外し放物面鏡により開発したGW級のアト秒パルスをサブミクロンサイズに集光することにより10^15 W/cm^2を超える光強度が得られ、第2次高調波発生等の固体表面での非線形現象の観測が可能であることが確認された。 一方、炭素を含む多原子分子の内殻励起のアト秒ダイナミクスの観測を目的としてX線過渡吸収分光シミュレーターを開発した。サブkeVのアト秒パルスを原子・分子に照射すると、複数の電子状態がコヒーレントに同時励起された電子波束が生成する。この電子波束は,多原子分子の場合には、10 fs オーダーの寿命で崩壊していく。その主因の一つが、原子核と電子の間に働く振電相互作用によって引き起こされる非断熱遷移である。そこで、炭素K-edge近傍の光子エネルギーを持つアト秒X線パルスをポンプープローブパルスとして多原子分子に照射した場合の電子(空孔)ダイナミクスをC(1s)イオン化からKLL Auger緩和、そしてその後の非断熱遷移に至るまで一貫して追跡できる非断熱量子動力学法を新たに開発し、芳香族分子Troponeに適用してその有効性を確認した。
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