研究課題/領域番号 |
19H05630
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
林 雄二郎 東北大学, 理学研究科, 教授 (00198863)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | 全合成 / 生物活性分子 / 有機触媒 / 不斉合成 |
研究実績の概要 |
天然物を基にして優れた医薬品が開発されてきた。しかし、入手困難で、複雑な骨格を有する天然物、特に分子量が500以上の中分子天然物の科学は、未開拓のままである。短段階合成は現在の天然物合成の潮流の一つであるが、複雑骨格を有する化合物の大量合成可能な手法での短段階合成は未解決の挑戦的課題である。 筆者は、革新的触媒である有機触媒を開発し、多くの実用的・大量合成可能な不斉触媒反応を見出し、複数の反応を同一反応容器で行う、ポットエコノミーという独自の概念を提唱している。そこで、大量合成可能な有機触媒反応と迅速合成を可能とするポットエコノミーを組み合わせ、複雑な骨格のため未開拓な希少天然物群を、短段階で大量合成することを目的とし、アンポテリシンの全合成を検討した。 アンポテリシン B は38員環ポリエンマクロリドで、強力な抗真菌剤である。真菌細胞膜と反応し殺菌作用を示す一方、動物細胞膜とも親和性を有することから重篤な副作用を引き起こす場合がある。活性と毒性の量的な違いが少なく、安全性の高い類縁体の創製が望まれている。 不斉触媒アルドール反応に引き続きWittig反応を同一ポットで行いa,b-不飽和ケトン部位を導入した。さらにBi(OTf)3存在下アルデヒドを作用させると、アセタール化、分子内1,3-不斉オキシマイケル反応が連続的に進行し、1,3-syn ジオール部位を立体選択的に構築できた。本手法により、ポリオール部位のC1ーC6部位及びC7ーC14部位の立体選択的合成法の確立を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
筆者の開発したdiarylprolinolという有機触媒を用いるアルキニルアルデヒドとアセトアルデヒド間のクロスアルドール反応は、大きなスケールでも問題なく進行した。本アルドール生成物にニトロメタンを用いたヘンリー反応を行い、生じたジオールをアセタール化したのち、Nef反応を行い、ニトロ基をケトンに変換した。塩基性条件下、6員環が熱力学的に安定な椅子型配座に異性化することにより、C1ーC6部位を立体選択的に合成することができた。 C8ーC14部位は、diarylprolinolを用いるグリオキシル酸エチルとアセタルデヒドとのクロスアルドール反応ののち、同じ反応容器内にWittig反応試薬を加えa,b-不飽和ケトンとした。こののち、我々の研究室で開発したドミノ反応を行なった。すなわち、アルデヒドと触媒量の Bi(OTf)3を作用させると、アセタール化に引き続き分子内1,3-不斉オキシマイケル反応が連続的に進行し、C8ーC14部位を立体選択的に合成することに成功した。 C15ーC19部位も有機触媒を用いたアルドール反応を基盤として合成した。すなわち、diarylprolinolを用いるアルキニルアルデヒドとβアルコキシアルデヒドとのアルドール反応が円滑に進行し、同一反応容器内にNaBH4を加え、アルデヒドを還元した。ジオールを得たのち、2つの水酸基をTBS基で保護し、PPTSにより1級水産基の脱保護、酸化によりC15ーC19部位の立体選択的合成を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
C8ーC14部位のメチルケトン部位をシリルエノールエーテルとする。一方、C15ーC19部位のアルデヒドと、ルイス酸を用いる向山アルドール反応で、2つの部位を連結する。C17位の立体で、C15位の立体が制御できると考えているが、最適なルイス酸、反応条件を探索する予定である。その後C17位の水産基の保護基の脱保護を行うことにより、C13位のケトンとヘミアセタールを形成し、ピラン環が構築できるものと期待する。アセタール部位の保護基の架け替え、C8位のエステルにクライゼン縮合で1炭素増炭を行い、C7ーC19部位を有するホルナー・エモンス反応試薬を合成する。 先に合成したC1ーC6部位のアルデヒドとC7ーC19部位のホルナー・エモンス反応試薬を反応させ、C1ーC19部位を合成する。C6ーC7の2重結合を還元して、アルカンとし、C8位のケトンを還元反応により、C8のアルコールを得る。この還元の立体選択性を発現するために、嵩高い還元剤等を検討する予定である。アルコールをシリル基で保護する。 次にC18ーC19位のアルキン部位を利用して、C20位以降の炭素鎖伸長の足がかりにする。具体的にはヒドロホウ素化反応等を利用してC20位をアルデヒドに変換する予定である。 一方、C33ーC37部位の立体選択的な合成に取り掛かる。この部位は4つの連続する不斉点を有する。この部位も有機触媒を用いるアルドール反応を基盤として構築する。クロロアセトアルデヒドとプロパナールの有機触媒を用いるアルドール反応ののちに、アルデヒドをアセタールとして保護する。還元剤により塩素を水素に変換後、アセタールを脱保護し、生じたアルデヒドにEvansアルドール反応を行い、立体選択的にアルドール体を得る。その後、官能基変換反応、炭素増炭反応等を行い、C33ーC37部位の合成を行う予定である。
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