研究課題/領域番号 |
19H05634
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
寺西 利治 京都大学, 化学研究所, 教授 (50262598)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 元素置換 / 金属化合物 / 合金 / イオン結晶 / 電子構造 / 触媒 |
研究実績の概要 |
本研究では、理論・実験両面から貴金属の性能を凌駕する一連の新奇ナノ粒子群を創製する。すなわち、①低周期dブロック金属ナノ粒子へのpブロック元素の導入やガルバニック置換による合金化により電子構造を大きく変調し、貴金属ナノ粒子がもつ物性・触媒特性を圧倒的に凌駕する新金属相ナノ粒子群を創製する。さらに、②低周期dブロック金属からなる半導体ナノ粒子のイオン交換により、結晶構造・電子構造を部分的に変調し、貴金属ナノ粒子では困難な全近赤外光エネルギー変換ヘテロ構造ナノ粒子群を創製する。 本年度は、貴金属の合金化の新奇手法として、単分散なPd-P合金ナノ粒子を出発物質としたPd基合金ナノ粒子の合成手法を利用した。これまでに、B2-PdInナノ粒子では、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)に起因する吸収ピークが可視領域に確認されており、吸収ピークの極大波長はB2-PdInナノ粒子の粒径の増大とともに長波長側にシフトすることが観測されている。B2-PdInナノ粒子のLSPR発現が11族元素に類似したバンド構造に由来であることに着目し、B2-ZnPdを同様の手法で合成した。その結果、B2-ZnPdナノ粒子も可視領域にLSPR吸収を示すことが分かった。すなわち、11族元素に類似したバンド構造をもつB2-Pd基合金が、新たに可視領域にLSPR吸収を示すナノ粒子群であることを実証した。一方、新奇イオン結晶ナノ粒子として、berzelianite Cu2-xSeナノ粒子のNi2+/3+との陽イオン交換により、準安定相であるspinel Ni3Se4ナノ粒子および部分イオン交換物としてのCu2-xSe/Ni3Se4ヘテロ構造ナノ粒子の合成に成功した。また、Cu2-xSe/Ni3Se4ヘテロ構造ナノ粒子が非常に高い水酸化電極触媒能(過電圧230 mV@10 mA cm-2)を有することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従い、Pd-P合金ナノ粒子を出発物質としたPd基合金ナノ粒子の合成手法の開発を行い、従来得ることが困難であった種々のPd基合金ナノ粒子の合成ならびに生成機構の解明に成功した。さらに、B2-PdInナノ粒子やB2-ZnPdナノ粒子が、11族元素に類似したバンド構造に由来する局在表面プラズモン共鳴を可視-近赤外領域に発現することを見出した。さらに、イオン結晶ナノ粒子の陽イオン交換反応を用いると、従来合成が困難であった準安定構造ナノ粒子(spinel Ni3Se4)も生成可能であり、優れた触媒能を有することを実証できた。
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今後の研究の推進方策 |
○ 金属化合物ナノ粒子群の合成と新奇機能の開拓 本年度に引き続き、第4周期遷移金属および第5周期遷移金属が13~15族pブロック元素と共有結合した金属化合物ナノ粒子群の合成に徹底注力し、pブロック元素の最外殻p軌道によるナノ粒子の電子構造(バンド構造、フェルミ準位)変調を図る。ナノ粒子サイズは、室温バンド内電子遷移が容易に起こる5~20 nmをターゲットとする。pブロック元素の導入量(< 50 mol%)や最外殻p軌道エネルギー準位の変化とともに、金属化合物ナノ粒子の電子構造変調の描像を、理論計算と実験から明らかにする。pブロック元素の最外殻p軌道エネルギー準位を考慮すると、p軌道との混成によりフェルミ準位の上昇(貴側)やdバンドセンターの低下(卑側)が期待できるため、固体触媒特性について検討する。同時に、金属化合物ナノ粒子群の基礎物性として、電子構造変調に基づく電気伝導率やプラズモン特性を明らかにする。 ○ イオン結晶ヘテロ構造ナノ粒子群の合成と近赤外プラズモニクスの開拓 一般に、ナノ粒子の局在表面プラズモン振動緩和は極めて速いため、外部にキャリアを取り出すことは困難であるが、欠陥準位やp-n接合を巧みに利用することにより、近赤外プラズモン誘起電荷分離において、高い量子収率とマイクロ秒を超える長い電荷分離寿命が期待できる。そこで次年度は、Cu欠陥に基づく自由ホール数制御により近赤外領域でのLSPR波長が制御可能なp型半導体硫化銅(Cu2-xS)およびセレン化銅(Cu2-xSe)ナノ粒子に着目し、フェルミ準位から励起プラズモンエネルギー内に伝導体下端もしくは価電子帯上端をもつn型半導体相をイオン交換によりヘテロ接合させる。過渡吸収スペクトル測定により、キャリアおよび電荷分離寿命を決定後、助触媒を担持し水還元・酸化反応に展開する。
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