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2022 年度 実績報告書

植物細胞の脂質分泌の鍵をにぎるバルク輸送マシナリーの分子基盤

研究課題

研究課題/領域番号 19H05638
研究機関京都大学

研究代表者

矢崎 一史  京都大学, 生存圏研究所, 教授 (00191099)

研究分担者 粟野 達也  京都大学, 農学研究科, 助教 (40324660)
研究期間 (年度) 2019-06-26 – 2024-03-31
キーワード植物細胞 / 脂質分泌 / バルク輸送 / ABCトランスポータ / 膜ダイナミクス / シコニン
研究実績の概要

植物は生理活性の高い数多くの二次代謝産物を特定の細胞から細胞外に分泌し、アポプラスト(細胞外スペース)に蓄積する。しかし、水に溶けない物質を含有した脂質一重膜の油滴が、どのようなメカニズムで水を主とするサイトゾルを細胞膜に向けて移動し、細胞を殺すことなく分泌されうるのか、その分子メカニズムは依然として未知のままである。本研究でモデル実験系として用いるムラサキの培養細胞は、重量あたり10%を超える脂溶性物質のシコニン誘導体を細胞外に分泌する。この系を用いて、植物細胞からの脂質のバルク輸送を司る輸送マシナリーの構成メンバーの同定と、輸送メカニズムの分子機構を明らかにすることを目的とする。
本年度は、脂質分泌に広く関わる G-typeのABC輸送体(ABCG)を含むABC輸送体のムラサキ・ゲノムにおける全容を解明するため、トランスクリプトームを組み合わせて、ムラサキの全ABC輸送体のインベントリーを DNA Res. に発表した。その中に、ムラサキ特異的に増幅したABCGのクレードを見出し、ゲノム編集クローンの作成に進んだ。また、シコニン分泌がトリアシルグリセロール(TAG)をマトリックス脂質として細胞外分泌されることをJ. Exp. Bot. に論文化した。この論文では、植物細胞において分泌される分子と細胞内の貯蔵用TAGとでは、脂肪酸の組成が明確に異なることを報告した。なお、このTAG分泌は、ムラサキだけに特異的な現象ではなく、タバコ植物体でも同様に表皮細胞から分泌に特化したTAGが見出された。
電子顕微鏡解析においては、昨年開発した改良型の化学固定法を利用して、膜ダイナミクスを阻害するサイトカラシンDやブレフェルジンAの効果を細胞内の油滴に着目してその効果を評価した。また、新規化学固定法の固定剤を凍結置換固定法に応用し、従来法よりも細胞内膜系が高コントラストで観察できることを確認した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

A) 解析すべきABCタンパク質メンバーを見落とさないよう、ゲノムレベルでの解析を行い、DNA Res. に発表した。着目すべき点として、ムラサキ特異的に増幅したABCGのクレードを見出した。また、ゲノムとトランスクリプトームの解析により、脂質の生産に関わるマスターレギュレータと思われる転写因子を見出した。これに関して、ゲノム編集ベクターの作成とムラサキへの導入の実験ルートに乗せた。
B) については、VIGSに変えてゲノム編集(安定形質転換体)のアプローチに変更している。
C) R4年度は、脂質の分泌に関して一つの鍵を握るCys-rich タンパク質のLeDI-2について、複数のゲノム編集クローンを作成した。D) LeDI-2のゲノム編集クローン内で編集効率の高かったクローンに関して脂溶性物質をターゲットとしたメタボローム解析を行った。その結果、特定のポーラーリピッドが著しく減少するとともに、シコニンを含むほぼ全てのメロテルペン系代謝産物の現象が見出された。
E) TAGがシコニンとともに細胞外に分泌されることに着目し、LeDI-2と一連のTAG生合成酵素との相互作用を明らかにすることに着手した。R4年度末までに一連の遺伝子を持つ発現ベクターの構築を行った。翌年度の解析に進める。
F) 脂質輸送阻害剤投与した毛状根を新規化学固定法で固定し観察した。サイトカラシンD投与では表皮および皮層外側の細胞、ブレフェルジンA投与では根端のほぼ全細胞で、細胞質に脂肪滴の蓄積が見られた。アクチン脱重合やトリアシルグリセロール輸送阻害による脂肪滴の輸送阻害が示唆された。また、新規化学固定法の固定剤を凍結置換固定法に応用し、従来法よりも細胞内膜系が高コントラストで観察できることを確認した。研究開始当初の予定にあった免疫電顕に関しては、バックグラウンドの低い抗体が得られず、遅れが見られる。

今後の研究の推進方策

R5年度は最終年度であるため、データを順次論文化する。現在、ハーフサイズABCG輸送体の解析と、LeDI-2に関する包括的な解析、さらに本遺伝子のゲノム編集クローンにおけるメタボローム解析に関しては、それぞれ論文投稿へと進む予定である。
これまでの候補タンパク質のデータから、単独の高発現ではワックスやクチンのような脂溶性ポリマーの分泌には大きな変化はなく、むしろ低分子化合物の分泌に影響が見られた。これは、脂溶性物質の分泌が、低分子と高分子で異なったパスウェイがあることを示唆している。この可能性を視野に入れ、取得したコンポーネントに関してデータを取りまとめ、論文化を進める。
R4年度の新たな取り組みである、TAG生合成酵素群とLeDI-2との相互作用解析に関しては、タグを用いた共免疫沈降の実験に進め、LeDI-2を中心としたメロテルペン系脂溶性低分子とマトリクス脂質の分泌の同調に関して明らかにする。
輸送マシナリーに関与するメンバーの免疫電顕に関しては、実験に使える良い抗体が得られておらず、達成は困難と見込まれる。その代わりに、R4年度のゲノム解析から、脂質の生合成や輸送を包括的に制御する転写因子を同定した。この遺伝子の転写ネットワーク解析を通じて、新なアプローチによる輸送マシナリーメンバーの発見が期待される。本転写因子に関しては、統計解析のためにゲノム編集クローンの生物学的反復を増やし、R5年度内に論文化を目指したい。
電子顕微鏡解析においてはさらに、新規化学固定法の固定剤を凍結置換固定法に応用し、シコニン分泌が盛んなムラサキ毛状根の根端表皮細胞における脂肪滴の生産や輸送、細胞外への分泌に関与する細胞内膜系のよりインタクトな観察を行う。氷晶形成により凍結固定がうまく行かない場合は、次善の策として化学固定により前固定した毛状根を凍結置換固定するハイブリッド固定法により対応する。

  • 研究成果

    (18件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 5件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Apoplast-localized β-glucosidase elevates isoflavone accumulation in the soybean rhizosphere2023

    • 著者名/発表者名
      Matsuda, H., Yamazaki, Y., Moriyoshi, E., Nakayasu, M., Yamazaki, S., Aoki, Y., Takase, H., Okazaki, S., Nagano, A.J., Kaga, A., Yazaki, K., Sugiyama, A.
    • 雑誌名

      Plant and Cell Physiology

      巻: in press ページ: -

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Gromwell, a purple link between traditional Japanese culture and plant science2023

    • 著者名/発表者名
      Emi Ito, Ryosuke Munakata, Kazufumi Yazaki
    • 雑誌名

      Plant and Cell Physiology

      巻: in press ページ: -

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Inventory of ATP-binding cassette proteins in<i>Lithospermum erythrorhizon</i>as a model plant producing divergent secondary metabolites2022

    • 著者名/発表者名
      Li Hao、Matsuda Hinako、Tsuboyama Ai、Munakata Ryosuke、Sugiyama Akifumi、Yazaki Kazufumi
    • 雑誌名

      DNA Research

      巻: 29 ページ: 1~12

    • DOI

      10.1093/dnares/dsac016

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Excretion of triacylglycerol as a matrix lipid facilitating apoplastic accumulation of a lipophilic metabolite shikonin2022

    • 著者名/発表者名
      Tatsumi Kanade、Ichino Takuji、Isaka Natsumi、Sugiyama Akifumi、Moriyoshi Eiko、Okazaki Yozo、Higashi Yasuhiro、Kajikawa Masataka、Tsuji Yoshinori、Fukuzawa Hideya、Toyooka Kiminori、Sato Mayuko、Ichi Ikuyo、Shimomura Koichiro、Ohta Hiroyuki、Saito Kazuki、Yazaki Kazufumi
    • 雑誌名

      Journal of Experimental Botany

      巻: 74 ページ: 104~117

    • DOI

      10.1093/jxb/erac405

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Plant specialized metabolites in the rhizosphere of tomatoes: secretion and effects on microorganisms2022

    • 著者名/発表者名
      Nakayasu Masaru、Takamatsu Kyoko、Yazaki Kazufumi、Sugiyama Akifumi
    • 雑誌名

      Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry

      巻: 87 ページ: 13~20

    • DOI

      10.1093/bbb/zbac181

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 合成生物学を利用したメロテルペン類とアルカロイドの微生物生産2022

    • 著者名/発表者名
      棟方涼介、矢﨑一史
    • 雑誌名

      植物の生長調節

      巻: 57 ページ: 93~99

    • 査読あり
  • [学会発表] 日本文化を支えた『紫』の染料植物2023

    • 著者名/発表者名
      矢崎一史
    • 学会等名
      グリーンエネルギーファーム産学共創パートナーシップ
    • 招待講演
  • [学会発表] ムラサキにおける細胞外ナフトキノンと分泌型ペルオキシダーゼの生理的役割2023

    • 著者名/発表者名
      市野 琢爾, 陽川 憲, 巽 奏, 晝間 敬, 中安 大, 高松 恭子, 森吉 英子, 棟方 有桂, 杉山 暁史, 渡邊 崇人, 下村 講一郎, 渡辺 隆司, 矢﨑 一史
    • 学会等名
      第64回日本植物生理学会年会
  • [学会発表] wo peroxisomal 4-coumaroyl-CoA ligases are involved in shikonin biosynthesis of Lithospermum erythrorhizon2023

    • 著者名/発表者名
      中西浩平、李豪、市野琢爾、巽奏、刑部敬史、渡辺文太、下村講一郎、矢崎一史
    • 学会等名
      第64回日本植物生理学会年会
  • [学会発表] 薬効成分の生合成と蓄積の分子機構 ―シコニンを緒として―2022

    • 著者名/発表者名
      矢崎一史
    • 学会等名
      日本生薬学会第68回年会(松山)
    • 招待講演
  • [学会発表] ムラサキ培養細胞における脂溶性色素シコニンの生産とトリアシルグリセロールの分泌2022

    • 著者名/発表者名
      矢﨑一史、巽 奏、市野琢爾、清都晋吾、粟野達也、太田啓之、斉藤和季
    • 学会等名
      第34回植物脂質化学シンポジウム(京都)
    • 招待講演
  • [学会発表] 植物フェノール類の生理活性向上の鍵を握る二次代謝系プレニル化酵素2022

    • 著者名/発表者名
      矢崎一史
    • 学会等名
      第32回イソプレノイド研究会(新潟)
    • 招待講演
  • [学会発表] 植物細胞における脂溶性物質の蓄積と分泌2022

    • 著者名/発表者名
      矢崎一史
    • 学会等名
      第3回天然ゴム研究会(仙台)
    • 招待講演
  • [学会発表] ムラサキのシコニン生合成に関わる2つの4-coumaroyl-CoA ligaseの機能特性2022

    • 著者名/発表者名
      中西浩平、李豪、市野琢爾、巽奏、刑部敬史、渡辺文太、下村講一郎、矢崎一史
    • 学会等名
      第39回日本植物バイオテクノロジー学会(堺)大会
  • [学会発表] 薬用植物ムラサキにおける2つのハーフサイズABCG輸送体の解析2022

    • 著者名/発表者名
      市野 琢爾, 巽 奏, 棟方 有桂, 坪山 愛, 森吉 英子, 中安 大, 高梨 功次郎, 矢﨑 一史
    • 学会等名
      第39回日本植物バイオテクノロジー学会(堺)大会
  • [学会発表] ムラサキ細胞のシコニン系脂溶性化合物の分泌における膜融合関連 タンパク質EXO70の解析2022

    • 著者名/発表者名
      正木泰斗、市野琢爾、豊田健人、下村講一郎、矢崎一史
    • 学会等名
      第34回植物脂質化学シンポジウム(京都)
  • [図書] 植物バイオテクノロジーでめざすSDGs(担当:第10章「薬の歴史 ―植物化学とのつながりを紐解く)2023

    • 著者名/発表者名
      矢崎一史 (編:小泉 望、加藤 晃)
    • 総ページ数
      184
    • 出版者
      化学同人
    • ISBN
      978-4-7598-2086-7
  • [備考] 森林圏遺伝子統御分野 矢崎研究室

    • URL

      https://www.rish.kyoto-u.ac.jp/lpge/

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公開日: 2023-12-25  

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