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2022 年度 実績報告書

真菌における一酸化窒素の統合的理解と育種・創薬への応用

研究課題

研究課題/領域番号 19H05639
研究機関奈良先端科学技術大学院大学

研究代表者

高木 博史  奈良先端科学技術大学院大学, 研究推進機構, 特任教授 (50275088)

研究分担者 那須野 亮  奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (90708116)
西村 明  奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (30781728)
渡辺 大輔  奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (30527148)
萩原 大祐  筑波大学, 生命環境系, 准教授 (20612203)
高谷 直樹  筑波大学, 生命環境系, 教授 (50282322)
研究期間 (年度) 2019-06-26 – 2024-03-31
キーワード一酸化窒素 / 酵母 / 糸状菌 / 合成制御機構 / 生理機能
研究実績の概要

1.酵母におけるNOの分子機能の解明
NOはシグナル分子として機能する一方、過剰なNOはストレスを引き起こす。今年度は、NO依存的な翻訳後修飾に着目して酵母Saccharomyces cerevisiaeのNOストレス応答について解析した。NO処理した酵母のプロテオーム解析から、解糖系酵素のfructose-1,6-bisphosphate aldolase Fba1のCys112が、NO依存的にS-グルタチオン化(SGT化)されることを見出した。また、Fba1の酵素活性はCys112のSGT化により抑制され、glutaredoxin Grx1はFba1のSGT化および活性抑制を解除した。一方、Cys112のSGT化に依存して、ペントースリン酸回路(PPP)の代謝中間体、および主にPPPで合成されるNADPHの細胞内含量が増加した。さらに、Cys112のSGT化が起こらないFba1を発現する株は、NOストレスに感受性を示した。従って、NO依存的なCys112のSGT化によりFba1活性が抑制された結果、解糖系・PPPの代謝が変化し、増加したNADPHがNOストレス耐性に寄与すると結論付けた。

2.糸状菌におけるNOの分子機能の解明
今年度は、植物や細菌由来の様々な抗真菌性化合物に対する病原糸状菌Aspergillus fumigatusの細胞応答を調べた。その結果、A. fumigatusは抗真菌化合物(チモール、ファルネソール、シトラール、ネロール、サリチル酸、フェナジン-1-カルボン酸、ピロシアニン)に曝露された後、あるいは酸化ストレスおよび高温ストレス条件下で、その菌糸中に活性酸素種(ROS)を生成した。また、ROSやNOの消去剤によってファルネソールの発芽阻害作用が一部抑制された。しかし、NOはGreiss法では菌糸中に検出されず、LC/MS分析からも抗真菌処理後の菌糸からはNOとDAF-FM DAに由来するDAF-FM-Tは検出されなかった。従って、抗真菌剤に曝された後、細胞の応答はより複雑である可能性があり、糸状菌におけるNOの役割をさらに解析する必要がある。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

1.酵母におけるNOの分子機能の解明
NOストレス条件下では、Fba1の酵素活性がSGT化を介して低下することで解糖系が抑制されるとともに、PPPの亢進に伴って増加したNADPHが酵母のNO耐性に寄与する可能性が示された。酵母の発酵生産過程においては、培地成分に用いる廃糖蜜に含まれる高濃度の亜硝酸イオンが、培養に伴う培地の酸性化によってNOに変換されることが知られている。本成果は、産業酵母のNO耐性機構を解明する端緒となり、有用酵母の育種に資することができる。また、SGT化修飾依存的な代謝制御によるNO耐性機構はこれまで報告がないことから、研究は順調に進展していると判断した。

2.糸状菌におけるNOの分子機能の解明
病原真菌Aspergillus fumigatusを用いて植物や細菌由来の様々な抗真菌性化合物に対する細胞応答を調べたが、予想に反してNOは抗真菌処理後の菌糸からは検出されなかった。このことは抗真菌剤に曝された後、細胞の応答はより複雑であることが示唆され、環境中で受ける生物的ストレスに対する細胞の応答として、生物間相互作用の理解に繋がると期待できる(原著論文を公表)。以上の理由により、おおむね順調に進展していると判断した。

今後の研究の推進方策

1.酵母におけるNOの分子機能の解明
これまでにオキシゲナーゼ候補として同定したErg11を酵母から精製し、還元酵素としてTah18を用いin vitroにてNO合成活性を解析する。また、Erg11とTah18の相互作用を解析するとともに、NO合成活性やErg11-Tah18相互作用に対するDre2の影響を評価する。また、Tah18、Dre2および本研究で同定したErg11の多種生物におけるオルソログについて、組換え酵素を用いたNOS活性測定や相互作用解析を行い、生物間保存性の有無を検証する。

2.糸状菌におけるNOの分子機能の解明
野生型株とcpcA破壊株におけるNO処理時の細胞内アミノ酸濃度を測定し、NO処理により存在量が変化するアミノ酸を同定する。また、CpcAの上流経路として知られる翻訳開始因子eIF2αに関して、NO処理時のリン酸化レベルを解析する。一方、シトクロムP450については、基質探索および電子伝達経路を解析する。また、シトクロムP450遺伝子の上流には、シトクロムb5とb5レダクターゼの融合タンパク質をコードする遺伝子が存在し、本融合タンパク質がシトクロムP450のレドックスパートナーであると予想している。そこで、各精製酵素を混合し、シトクロムb5/b5レダクターゼからシトクロムP450への電子伝達機構を詳細に解析する。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 2件)

  • [雑誌論文] Acetaldehyde reacts with a fluorescence nitric oxide probe harboring o-phenylenediamine structure interfering with fluorometry2022

    • 著者名/発表者名
      Ryo Nasuno, Yuki Yoshikawa, Hiroshi Takagi
    • 雑誌名

      Free Radical Biology and Medicine

      巻: 187 ページ: 29-37

    • DOI

      10.1016/j.freeradbiomed.2022.05.014

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Intracellular production of reactive oxygen species and a DAF-FM-related compound in Aspergillus fumigatus in response to antifungal agent exposure2022

    • 著者名/発表者名
      Sayoko Oiki, Ryo Nasuno, Syun-ichi Urayama, Hiroshi Takagi, Daisuke Hagiwara
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 12 ページ: 13516

    • DOI

      10.1038/s41598-022-17462-y

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] S-Glutathionylation of fructose-1,6-bisphosphate aldolase confers nitrosative stress tolerance on yeast cells via a metabolic switch2022

    • 著者名/発表者名
      Seiya Shino, Ryo Nasuno, Hiroshi Takagi
    • 雑誌名

      Free Radical Biology and Medicine

      巻: 193 ページ: 319-329

    • DOI

      10.1016/j.freeradbiomed.2022.10.30

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 酵母に見出したリボフラビン代謝を介したニトロソ化ストレス耐性機構と創薬への応用2023

    • 著者名/発表者名
      高木博史
    • 学会等名
      レドックスR&D戦略委員会 春のシンポジウム
    • 招待講演
  • [学会発表] 活性窒素種によるピルビン酸脱炭酸酵素のニトロ化修飾を介した酵母の発酵力の低下2022

    • 著者名/発表者名
      那須野 亮, Supapid Eknikom, 高木博史
    • 学会等名
      日本農芸化学会関西支部第520 回講演会
  • [学会発表] 解糖系酵素のS-グルタチオン化による代謝制御を介した一酸化窒素耐性機構2022

    • 著者名/発表者名
      那須野 亮, 示野誠也, 高木博史
    • 学会等名
      酵母遺伝学フォーラム第55回研究報告会
  • [学会発表] Saccharomyces cerevisiaeにおけるnitroreductaseの機能解析2022

    • 著者名/発表者名
      関 夏咲, 那須野 亮, 高木博史
    • 学会等名
      酵母遺伝学フォーラム第55回研究報告
  • [学会発表] A novel mechanism for nitrosative stress tolerance dependent on GTP cyclohydrolase II activity involved in riboflavin synthesis of yeast2022

    • 著者名/発表者名
      Hiroshi Takagi, Ryo Nasuno
    • 学会等名
      4th International Conference on Persulfide and Sulfur Biology
    • 招待講演
  • [学会発表] 酵母Saccharomyces cerevisiaeに見出した新たな活性カルボニル種消去分子と終末糖化産物の生成抑制機構2022

    • 著者名/発表者名
      那須野 亮, 高木博史
    • 学会等名
      第45回日本分子生物学会年会
  • [学会発表] 酵母の高浸透圧応答経路に及ぼす一酸化窒素ストレスの影響とその分子機構の解析2022

    • 著者名/発表者名
      秋山慎太郎, 那須野 亮, 高木博史
    • 学会等名
      第45回日本分子生物学会年会

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公開日: 2024-12-25  

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