研究課題/領域番号 |
19H05641
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
近藤 倫生 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (30388160)
|
研究分担者 |
川津 一隆 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (20747547)
山川 央 公益財団法人かずさDNA研究所, ゲノム事業推進部, 研究員 (40370928)
益田 玲爾 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 教授 (60324662)
田中 健太 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (80512467)
長田 穣 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 本部, 任期付研究員 (90750084)
|
研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
|
キーワード | 環境DNA / 生物多様性 / レジリアンス / 沿岸生態系 / データ駆動型研究 |
研究実績の概要 |
全国多地点で高頻度の環境DNAメタバーコーディング観測を実施する観測網ANEMONEの構築に成功した。45の沿岸サイトと23の河川・湖沼観測サイトが参加し、毎週~毎月の高頻度観測を実施している。また、観測点から集積する環境DNA試料を分析する手法・体制も決定できた。環境DNA観測データを非線形時系列解析に供するのに必要な、環境DNAの定量手法についても検討した。多岐に渡る地点から試料が採取されるため、DNA量の地点間変動が大きい。これに対応するため、環境DNA含量を採取試料毎にあらかじめ推定し、添加標準試料を最適化するような手法の開発を進めている。さらに、環境DNAメタバーコーディングパイプラインClaidentを大きく改訂し、1塩基の変異をも検出可能にした他、インデックスホッピングを検出・除去する機能やDNAクロスコンタミネーションを推定して除去する機能等も加えた。データ解析については、時系列群集データに適用できる因果推論手法UICを新たに開発し、Rプログラムで利用可能なrUICパッケージとして公開する準備を進めている。UICは様々な状況においてCCMやTEより高い推定能力を持つ。また、ノイズの多い不完全な生態系観測データからレジームシフトを検出するために必要な非線形時系列解析手法の開発に成功した。実データの解析も行なった。原子力発電所の稼働に伴って水温上昇の生じた内浦湾では、長期にわたって潜水目視による魚類生物相調査を実施してきた。非線形時系列予測を利用することで、このデータから水温上昇に伴う個体群動態変動ルールの変化を読み取ることに成功し、さらに種間でこのタイミングの似通ったものがあることを発見した。これは非線形時系列解析が、個体群動態の構造転換検出に利用できることを示唆しており、構造転換のパターンや機構を明らかにしようとする本研究の推進にとって大きな成果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
環境DNA観測については、当初予定していたJaLTERサイトによる採水体制を令和元年度中に達成できたことに加え、令和2年度には当初の予定にはなかった水研機構・水産試験場関係の全国サイトの観測サイトも実現でき、予定していた規模を上回る全国的な観測網の構築に成功した。また、この観測ネットワークをオープンデータポリシーのもとで運営される共同研究のプラットフォーム(ANEMONE)へと育てることができ、当初の予定よりも、生態学や環境DNA学の発展にとってより大きな意味や役割を持つ体制を実現できた。 データ解析手法の開発については、当初計画通り、多種時系列データからもとのシステムの力学的性質がどの程度再現できるかを理論的に明らかにし、注目する力学的性質の変化を引き起こしている原因、力学的性質の変化が生じる規模を評価する手法を開発することができた。特に、環境DNAから生態系のレジームシフトを予測する技術の開発に成功したことは重要な成果である。また当初の期待を超え、Convergent Cross MappingとTransfer Entropyという異なる分野から考案された2つの因果推定手法を理論的に統合し、より優れた新しい因果推定手法を開発することができた。 群集データ解析については、人工的な水温上昇の生じた内浦湾における魚類相の変化に着目し、非線形時系列解析手法を利用することで、魚類群集動態を駆動するルールが観測期間によって異なっていることを示すのに成功した。検出された駆動ルールの変化には、水温上昇によるもの以外にも複数を検出することができた。さらに、駆動ルールの変化のタイミングの種間差に注目することで、魚類は大きく二つのグループに分類できること、さらにこの二つのグループには温度変化に対する反応性に差があるらしいことがわかりつつある。この進捗は概ね当初予定通りである。
|
今後の研究の推進方策 |
環境DNA観測を続けると共に、開発されたデータ解析手法を用いて、魚類相の不連続な変化の検出、「構造転換」の巨視的なパターンの発見に取り組む。環境DNAデータを解析して正確に群集組成を定量評価するための手法・プラットフォーム開発を行う。またANEMONEの観測サイトに対しては、参加者間の共同研究が相乗的に進むような研究コミュニティ活発化を狙うマネジメントを行う。試料分析手法のさらなる最適化も今後の研究課題である。 生態系の構造転換がどのような環境、タイミングで発生するかの解析を行う。新しく開発した因果推定法の論文化をすすめるとともに、直接的相互作用と間接的相互作用を区別して効率よく相互作用網を構築する推定フレームワークの構築を行う。獲得した環境DNAデータに開発した手法を適用することで、実際に野外の生態系の力学的性質を明らかにする。 構造転換が生じた観測データを解析し、これが生態系の力学的性質の変化を伴うものであったか解明する。舞鶴湾等では潜水目視調査と環境DNA調査との間で検出魚種の照合を行い、それぞれの観測の特性を把握する。海水温上昇が生じた湾での環境DNA観測データを解析することで、魚類相の南方化が生じたタイミングを明らかにする。気仙沼においては、堆積物のコアサンプルの分析結果から、津波以前の生物情報を復元する研究も合わせて実施する。 生態系ナウキャストやフォアキャスト手法の研究を開始する。特に、生態系の力学的性質の変化を早期に検出(フォアキャスト)、正しく検出、あるいは敏感に検出するための具体的データ解析の手法を提案したい。また、多種の力学的性質の分布変化から、生態系構造変化のシグナルを検出する方法についても検討する。内浦湾・舞鶴湾での魚類相変化を捉えた観測データやANEMONE観測データを材料に、生態系の力学的性質を評価するための最適な手法を探索する。
|